RFP・入札仕様書を翻訳するには
要求番号と期限は、原文のまま渡す
海外の発注元から RFP が届いた、外国語の入札仕様書に応じるか社内で判断することになった、要求事項を技術部門にも読んでもらう必要が出た——調達や営業の担当者からは、「分量の多い要求仕様を、表組みを崩さずに社内の各部門が読める形にしたい」 という声をよく聞きます。RFP や入札仕様書は、読んで終わる文書ではありません。そこに書かれた一つひとつの要求が、提案書の構成、見積の根拠、体制の組み方に、そのまま対応していきます。だからこそ、要求の番号や提出期限が翻訳の工程でずれると、後の作業がまとめて狂います。本ガイドでは、訳す対象と訳さない対象を先に切り分け、修正版や質疑回答が続いても回る形に整える進め方を、専門知識を前提とせずに整理します。
所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 9 月
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セクション 1
なぜ RFP・入札仕様書の翻訳は手間取るのか
「要求事項を訳すだけ」に見えて、着手すると止まりやすい領域です。つまずきの原因は、次の 3 つに整理できます。
要求の番号が、後の全工程の共通言語になっている
RFP や入札仕様書の本体は、番号の振られた要求事項の並びです。提案書はその番号に沿って書き、社内の担当割りもその番号で分け、質疑もその番号を指して出し、評価もその番号ごとに行われます。つまり番号は、発注元と自社、そして社内の部門どうしをつなぐ共通の目印です。訳の工程で項番の階層が崩れたり、表の行が詰まって番号と本文の対応がずれたり、箇条書きの記号が変わったりすると、その後のやり取りが全部かみ合わなくなります。読みやすく整えることより、番号と本文の対応をそのまま写すことのほうが、はるかに大切です。
期限と条件が、社内の判断を直接動かしてしまう
RFP には、提出期限、質疑の受付期間、参加意思の表明期限、様式の指定、提出方法といった条件が並びます。これらは訳文を読んだ人が、そのまま社内のスケジュールや意思決定に使う情報です。ところが日付の書き方は国によって並びが違い、時刻には現地時間と時差の問題がつきまといます。「訳文の日付を見て動いたら、実は現地時間の締切だった」というずれは、翻訳の巧拙ではなく取り違えとして起きます。期限や条件の類は、訳す対象というより、原文と一字一句突き合わせる対象として扱ったほうが安全です。
一度訳して終わらず、修正版と質疑回答が積み重なる
RFP は、公示や配布のあとも動きます。質疑回答書が出て解釈が示され、修正版や追加の通知で要求そのものが差し替わり、提出様式だけが後から更新されることもあります。最初の一式を時間をかけて訳しても、更新のたびに同じ手間がかかる作り方をしていると、やがて社内には古い訳文だけが残ります。旧版の要求に沿って提案を書き進めてしまうと、手戻りは提案全体に及びます。「今回ぶんをどう訳すか」ではなく「更新が来るたびに同じ手順で回せるか」で考えたほうが、負担は小さくなります。
※ 本ガイドは、すでに受け取っている資料を「翻訳して社内で読める形にする」工程を扱うものであり、応札の可否、提案内容や見積の妥当性、要求事項の法的な解釈、訳文を根拠に判断してよい範囲を示すものではありません。これらは案件・発注元・契約条件・自社の方針によって異なります。判断は自社の調達・営業・技術・法務の所管部門、必要に応じて弁護士など外部の専門家にご確認ください。また、受け取った資料の取り扱いは、発注元との秘密保持の取り決めに従ってください。
セクション 2
RFP・入札仕様書を翻訳する方法 — 比較
この領域でよく使われる方法は、大きく 4 つあります。「分量が多い」「締切が近い」「表組みと項番で構成されている」「秘密保持の対象であることが多い」という RFP の性質に照らして、それぞれの向き不向きを押さえておきます。
| 翻訳の方法 | 手間・スピード | 文書データの扱い | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 翻訳会社に依頼する | 品質は高いが、日数と分量に応じた調整が必要で、締切までの日数が短い案件や修正版の差し替えには回しにくい | 文書は依頼先にとどまる(取り決めによる) | 提出物として出す文書や、時間に余裕のある大型案件 |
| クラウド型の翻訳サービスに貼り付ける | 貼り付けるだけで速いが、表組みと項番を自分で組み直すことになり、分量が多いと現実的でない | 本文がサービス提供元のサーバーに送られる | 公開されている公告や、秘密保持の対象でないと確認できた文書 |
| 社内の外国語ができる社員に頼む | その場で頼めるが、本来の業務の合間になり、締切の決まった分量には持たない | 社内にとどまる | 数ページの照会や、特定の要求だけを確かめたい場合 |
| 手元(ローカル)で処理する翻訳ツール | ファイルを渡すだけで速く、表組みと項番を保ったまま訳せる。修正版も同じ手順で回せる | 文書は PC の中で処理され、翻訳サービス事業者にはアップロードされない | 受領直後の検討・修正版への追従・秘密保持の対象となる資料・複数部門への同時共有 |
※ どれか 1 つに絞る必要はありません。受け取った直後の検討は手元のツールで速く訳し、提出する文書は文面を固めて確認を通す、という使い分けが現実的です。なお、RFP や入札仕様書は、発注元との秘密保持の取り決めのもとで渡されていることが少なくありません。社外のサービスに載せてよいかは、受け取ったときの条件と自社の情報管理のルールに照らして、着手前に確認しておいてください。判断がつかないうちは、手元で処理できる方法を選んでおくほうが安全です。
セクション 3
実務の進め方 — 「修正版が来る」前提で型を作る
RFP の翻訳は、受け取った版で終わりません。質疑回答が出て、修正版が届き、様式だけが差し替わります。最初に型を作れるかどうかで、2 回目以降の負担が変わります。押さえておきたい点を 4 つにまとめます。
「訳す語」「訳さない語」「毎回同じ訳にする語」を先に仕分ける — 要求の本文、背景や目的の説明、評価の観点、注記は訳す対象です。一方、要求番号・条項番号・様式番号、日付と時刻、数量と単位、通貨と金額、規格や法令の番号、発注元の組織名や案件名、製品の型番は、原文のまま残す対象です。そして、その案件で繰り返し出てくる要求の言い回し(提供する・保証する・報告する)、成果物の呼び方、体制や役割の呼び方は「毎回同じ訳語にする語」です。この 3 つをファイルを開く前に仕分け、後の 2 つを用語辞書(用語集)に登録しておくと、担当者が分かれても訳がぶれません。同じ成果物が箇所によって違う訳語になっていると、社内では別のものとして議論が進みます。
要求の強さを、訳で強めない・弱めない — 仕様書の要求には、必ず満たすべきものと、望ましいとされるもの、選択できるものが混在しています。原文ではその区別が、決まった言い回しや助動詞で書き分けられていることが多く、評価の重み付けにも直結します。訳文を整える過程で、この差が「〜すること」に一律にそろえられたり、逆に強い表現に寄ったりすると、社内の受け取り方が変わり、提案の力の入れどころを間違えます。原文の区別が訳文でも見分けられる状態を保ってください。なお、その言い回しが契約上どういう意味を持つかの解釈は、翻訳の工程で決めるものではありません。法務や所管部門の判断に委ねてください。
元ファイルごと翻訳する — RFP や入札仕様書は、要求一覧の表、様式の記入欄、評価配点の表、添付の様式集といった形で、番号と本文と欄が結びついた状態で意味を持ちます。本文だけをコピーして訳すと、この対応が崩れ、突き合わせに時間を取られます。ファイルの書式を保ったまま翻訳できる方法を選ぶと、原本と同じ体裁の訳文がそのまま出せる状態になり、原本と訳文を並べて確認する作業も楽になります。なお、図や画面写真の中に画像として描き込まれた文字は翻訳の対象になりません。どの文字が編集できるデータで、どれが画像なのかを最初に洗い出しておいてください。
用語辞書と翻訳メモリを、部門で引き継げる場所に置く — 同じ発注元からの案件、同じ業界の入札では、要求の書き方や様式が回を重ねても似通います。原文と訳文を翻訳メモリとして持っておけば、次の案件や修正版では「変わったところ」に力を集中できます。用語辞書も同じで、一度決めた要求の言い回しや成果物の訳語を引き継ぐことが、社内での認識のずれを減らします。案件ごとに担当が変わる前提で、辞書とメモリを個人の手元ではなく部門の資産として残しておいてください。
翻訳の用語を統一して品質を安定させるには
要求の言い回しや成果物の呼び方の訳がばらつく問題は、RFP に限らず業務文書の翻訳運用に共通の課題です。用語集(用語辞書)で訳のぶれをなくす考え方と、最初に登録すべき語の選び方をこちらの実務ガイドに整理しています。
翻訳の用語統一ガイドを読む →セクション 4
社内で検討するための版か、提出物の根拠にする版か — 用途で仕上がりを分ける
届いた資料をすべて同じ品質で翻訳しようとすると、締切に追いつきません。「速く回して社内の検討に使う版」と「提案や見積の根拠として残る版」で、求める仕上がりを分けるのが実務的です。
社内で内容を把握するための参照訳
速さを優先する版受領した直後に、案件の全体像をつかみ、応じるかどうかを検討し、どの部門に何を割り振るかを決めるための版です。逐語の完成度より「全部門が同じ資料を、同じ日に読める」ことに価値があります。この段階では機械翻訳の訳文をそのまま参照訳として使い、判断に効く箇所だけ原文に当たる運用で十分に機能します。資料上に参照用であることを明記し、原文の該当箇所をすぐ開ける状態にしておいてください。社外には出さないという前提も、あわせて共有しておきます。
提案・見積の根拠として残る版
確認を経て使う版提案書の構成や見積の前提として引用され、あとから「この要求をこう読んだ」と振り返られる版です。訳文をそのまま根拠にするのではなく、要求番号・期限・数量・単位・通貨が原本と一致しているか、要求の強さの区別が保たれているかを担当者が確認してから使います。最終的にどう読むかの判断は、翻訳の担当者ではなく、その要求に責任を持つ技術・調達・法務の各部門が行ってください。契約条件や権利義務に関わる条項は、訳文だけで結論を出さず、原文と所管部門の確認を経る運用にしておくと安全です。契約書そのものの翻訳については「契約書を書式を保ったまま翻訳するには」のガイドもあわせてご参照ください。
秘密保持の対象になる資料を安全に翻訳するには
RFP や入札仕様書は、発注元との秘密保持の取り決めのもとで渡されていることが少なくありません。こうした資料を、クラウド型の翻訳サービスに貼り付けてよいのか——。翻訳でデータがどこへ送られるか、処理場所による違い、手元(ローカル)処理・BYOK の考え方は、こちらの実務ガイドに整理しています。
社内文書の安全な翻訳ガイドを読む →セクション 5
つまずきやすいポイント
RFP・入札仕様書の翻訳で引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。
要求番号・日付・数量・単位・通貨は訳さず、必ず原本と突き合わせる — 要求番号、条項番号、様式番号、提出期限と時刻、数量、単位、通貨、金額の表記は、意味を訳す対象ではなく原本と一致させる対象です。ここでのずれは、読みにくさではなく判断の誤りになります。とくに注意したいのが、けた区切りや小数点に使う記号の違い、日付の並び順の違い、英数字が全角に置き換わること、単位や通貨の記号の前後の空白が変わることです。単位や通貨を換算して書き換えるのも、翻訳ではなく内容への変更にあたります。必要かどうかは所管部門の判断とし、行う場合も原文の値が分かる形にしてください。訳し終えたら、本文の読みやすさとは別に「番号と数値と日付だけを原本と並べて突き合わせる」工程を必ず入れます。
期限は、訳文ではなく原文で管理する — 提出期限、質疑の締切、参加表明の期限は、社内の予定表に写した時点で独り歩きします。原文の時刻がどの地域の時間で書かれているか、期限が日付だけなのか時刻まで指定されているか、提出方法によって到達の判断が変わるのかは、訳文からは読み取りにくい部分です。期限に関わる情報は、訳文に頼らず原文の該当箇所を必ず開き、社内で共有する予定表にも原文の記載をそのまま添えてください。訳文の日付を根拠に社内の締切を引くのは避けたほうが安全です。
修正版・質疑回答が出たら、翻訳版も一緒に差し替える — 質疑回答書や修正版で要求が変わったのに、社内には初版の訳文だけが残っている状態は、訳文が無い状態よりも危険です。すでに提案の作成が進んでいるほど、手戻りは大きくなります。更新が入ったときに訳文も差し替える手順、旧版を共有場所から下げる手順、どの版を見るべきかを担当者に知らせる手順を、案件を開始した時点で決めておいてください。訳文には、対応する原本の版・発行日・改訂の区別を必ず残します。改訂が続く文書を管理する考え方は「品質マニュアル・ISO 文書を翻訳するには」のガイドにも整理しています。
全文をそろって訳すことより、判断に効く部分から回すこと — RFP は分量が多く、全体を訳し終えてから検討を始めると、それだけで日数を使います。実務では、案件の概要、応札の資格や条件、提出期限と様式、評価の観点、要求一覧の見出し——といった、応じるかどうかを決めるために要る部分から先に回し、詳細の要求は担当部門に割り振ってから進めるほうが早く動けます。添付の参考資料まで同じ力で訳す必要があるとも限りません。どこを先に読む必要があるかは、翻訳の工程ではなく、案件を見る担当者に決めてもらってください。
訳文は、発注元への確認や質疑を置き換えるものではない — 訳して読めるようになることと、要求の意図が分かることは別です。原文の段階で書き方が定まっていない箇所、複数の読み方ができる箇所は、翻訳では解決できません。そういう箇所を訳の工程で解釈して埋めてしまうと、社内では決着したように見えて、提案の前提だけがずれます。読み方が分かれる要求は、埋めずに残し、質疑の受付期間のうちに発注元へ確認するのが本筋です。質疑の期限は多くの場合、提出期限より前に来ます。翻訳の段取りを組む段階で、この期限を先に押さえておいてください。
セクション 6
よくある質問
RFP を、クラウド型の翻訳サービスに貼り付けても大丈夫ですか?
要求一覧が Excel の表になっています。表組みを保ったまま訳せますか?
訳文を根拠に、応札するかどうかを判断してもよいですか?
提案書のほうも、同じツールで翻訳できますか?
同じ発注元から毎年 RFP が来ます。毎回訳し直しになりますか?
分量が多く、締切まで日数がありません。どこから手を付けるべきですか?
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