HARMONIC insight
🧭 実務ガイド

生成 AI の業務利用ルールを動画で周知するには
禁止事項の読み上げで終わらせず、入力してよい情報の線引きを場面で判断できるようにする進め方

社内で使ってよいサービスを決め、入力してはいけない情報を規程に書き、通達を出した。それでも現場から上がってくるのは「これは入れていいのか」という個別の問い合わせばかり、というのはよくある状態です。文章の要約、議事メモの整理、翻訳の下書き、表計算の関数を尋ねる――業務の中で使いたくなる場面は日々増えていて、そのたびに情報システム部門に確認が飛んできます。ルールが守られないのは規程を読んでいないからというより、自分の目の前の作業がルールのどこに当たるのかを判断できないから であることが少なくありません。しかも決めたルールは、サービスの仕様や契約、社内の方針が変われば動きます。何を全社に同じ内容で届け、何を変わる前提で分けて持ち、何は教材ではなく所管部門の判断として残すのか――その切り分けと、見たことを記録に残すための進め方を整理します。情報システム・総務・法務・情報セキュリティでルールづくりや周知を任されている方、拠点や関係会社をまたいで案内を行き渡らせる立場の方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、場面から作る手順、記録の残し方、そして周知が形だけで終わるのを防ぐ作り方までを実務目線でまとめました。

所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 9 月

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セクション 1

なぜ生成 AI の利用ルールの周知を動画にするのか

この分野の周知には、他の社内ルールとは違う難しさがあります。対象になる場面が業務全般に広がっていること、決めたことが半年で変わること、そして詳しい人とまったく触っていない人の差が社内で極端に開いていることです。動画にする組織が増えているのは、次の 3 つの理由によります。

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通達とルール文書だけでは、作業の途中で判断できない

規程に「機密情報を入力してはならない」と書いてあっても、目の前にあるのが取引先の名前が入った議事メモだったとき、それが該当するのかどうかは読み手が自分で当てはめることになります。判断に迷えば所管部門へ問い合わせが来ますし、聞くのが面倒だと感じた人は聞かないまま進めます。動画にすると、条文ではなく実際に起こる場面――この文書ならどう扱うか、名前や数字をどうするか――を並べて見せられます。当てはめの例が頭に残っていると、その場で自分で止まれるようになります。

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部署・拠点・雇用形態で、届き方と前提知識の差が大きい

詳しい人が集まっている部署では説明がほとんど要らない一方、まったく触っていない部署では「そもそも何の話か」から始まります。店舗や現場、交代勤務の職場、パート・アルバイトの方まで含めて全員を集めて説明するのは現実的ではありません。動画にしておけば、同じ内容を各自の都合のよいタイミングで、必要なら巻き戻しながら見てもらう形が取れます。前提知識に差があるテーマほど、一斉の説明会より各自のペースで見られる形が向きます。

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決めたことが変わるたび、説明をやり直すことになる

利用してよいサービスの範囲、入力してよい情報の線引き、生成物の扱い――このあたりは、契約の内容や社内の方針が変われば見直しの対象になります。そのたびに全社説明会を開き直すのは負担が大きく、結局メール 1 通で済ませて誰も読まない、という流れになりがちです。台本から作り直せる形で教材を持っておくと、変わった部分だけを直して同じ体裁で出し直せます。入社・異動のたびに同じ説明が要る点も、動画のほうが手間が小さくなります。

※ 本ガイドは、社内で決めた生成 AI の業務利用ルールを動画教材として周知する方法を整理するものであり、教育の実施が義務づけられていることを示すものでも、法令・指針・ガイドラインへの適合や、ルールの内容・体制が十分であることを示すものでもありません。どのサービスの利用を認めるか、どの情報を入力してよいか、生成物をどう扱うか、記録をどう残すかは、業種、取り扱う情報の性質、取引先との取り決め、利用するサービスの契約条件、自社の規程によって異なります。ルールの内容と周知の範囲についての判断は、社内の情報システム・情報セキュリティ・法務・知的財産・人事の所管部門および経営層、必要に応じて弁護士など外部の専門家にご確認ください。

セクション 2

扱う内容の種類と動画化の相性

「生成 AI の利用ルールの周知」とひとことで言っても、その中身は、サービスが変わっても通用する考え方から、自社で決めた利用範囲と相談先、部門ごとの具体的な場面、そして個別の案件についての可否判断まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わります。ここを切り分けておくと、作る本数も、ルールが変わったときの作り直しの範囲も見通しが立ちます。

扱う内容変わりやすさ動画化との相性進めるときのポイント
共通の考え方(入力した情報がどう扱われうるか、生成された内容をそのまま信じないこと、確認する責任は使った人に残ること、迷ったら止めて相談すること)変わりにくい全員に同じ内容を届ける用途に向く1 本目はここから。部署や雇用形態が違ってもそのまま渡せる
自社で決めたこと(業務で使ってよい範囲、入力してよい情報・してはいけない情報、生成物を社外に出すときの扱い、申請や相談の窓口)契約・方針の 見直しで変わる向くが、共通編と別の本に分けておく必要がある自社編として独立させ、決定が変わったらこの本だけ差し替える
部門ごとの場面(顧客とのやりとりの文面、設計や仕様の資料、人事や採用に関わる情報、外部に出す原稿の下書き)業務の変化に あわせて変わる一部向く。代表的な場面を扱うところまで部門編として短く分ける。網羅しようとせず典型例に絞る
個別の案件についての可否判断、契約や規約の解釈、権利関係の判断、インシデントが起きたときの対応その時・その 状況による定められた手順に沿って行うものであり、動画で置き換えるものではない動画は「迷ったら止まって相談先にたどり着ける」まで

※ 何をどこまで教材に載せるか、どの範囲の人を対象とするかは、業種、取り扱う情報の性質、利用するサービスの契約条件、自社の規程によって異なり、本ガイドでは判断できません。利用してよいサービスの選定、入力してよい情報の線引き、生成物の権利や責任の扱い、記録の保存期間といった事項は、教材で決めるものではなく、情報システム・情報セキュリティ・法務・知的財産の所管部門と経営層の領域です。社内の所管部門にご確認のうえ、決まっている内容を教材に反映してください。

セクション 3

実務の進め方 — ルールの条文ではなく、判断に迷う場面から作る

この分野の教材でつまずきやすいのは、規程の条文と禁止事項の一覧を読み上げる作りにしてしまい、受け手が自分の作業に当てはめられないまま終わるパターンです。受け手が知りたいのは「何が禁止か」より「自分が今やろうとしていることは、やっていいのか」です。手元に自社の利用規程、利用を認めているサービスの一覧、これまでに寄せられた問い合わせの記録を揃えたら、次の順で進めると形になります。

実際に来ている問い合わせを、そのまま場面の材料にする — 所管部門には「この資料を要約させていいか」「顧客名は伏せれば入れていいか」といった問い合わせが既に届いているはずです。これが教材に載せるべき場面の一次資料になります。想像で場面を作るより、実際に迷われた事柄を扱うほうが受け手に届きますし、同じ問い合わせが減ります。5 件も並べれば、線引きの考え方は十分に伝わります。

禁止事項の一覧から始めない。「使ってよい範囲」を先に置く — 冒頭から「してはいけないこと」を並べると、受け手は使うこと自体をとがめられていると受け取ります。その結果起きるのは利用の停止ではなく、所管部門に見えないところで使われることです。まず業務のどこで使ってよいのか、どういう作業なら申請なしで進めてよいのかをはっきり示し、そのうえで境界と相談先を伝える順にしてください。ルールを守れる状態にするというのは、守れる範囲が本人に見えている状態にするということです。

入力してよい情報の線引きは、情報の種類で示す — 「機密情報は入力しない」だけでは判断できません。顧客や取引先から預かった情報、個人が特定できる情報、公表前の情報、契約で取り扱いが定められている情報――自社のルールで区分している呼び方に沿って、身近な文書の例と一緒に示すと当てはめられるようになります。区分そのものは所管部門が定めているはずなので、教材で新しい分類を作らず、既にある区分をそのまま使ってください。教材と規程で言葉が食い違うと、現場はどちらに従えばよいか分からなくなります。

1 本目は「共通編」に絞る — 部門別や役職別から作り始めると本数が膨らみ、途中で止まります。まずは、入力した情報がどう扱われうるか、生成された内容を確認する責任は使った人に残ること、迷ったら止めて相談すること――この共通編だけで 1 本にすると、部署や雇用形態が違ってもそのまま渡せます。自社編(使ってよい範囲・申請と相談先)と部門編は、この共通編を見た前提で短く作れます。

ナレーションは目的に合わせて選ぶ — 自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。当面内容を変える予定がなければ録音でも構いません。一方で、このテーマのように決定が動きやすく、変わるたびに一部を直したい場合や、担当が代わっても更新していく前提の場合、日本語が母語でない方が働く職場で多言語版も用意したい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。用語や窓口の名称など聞き逃せない部分もあるため、字幕を併せて用意しておくと確実です。

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研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド

利用ルールの周知教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。

研修動画の作り方を読む →

セクション 4

視聴記録をどう残すか

誰がどの教材を見たかを把握しておくと、部署や雇用形態にかかわらず案内が行き渡っているか、ルールを見直したあとの配り直しが届いたかを確認できます。残し方は大きく 2 つです。

動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)

まず始めるなら

共有フォルダや拠点の端末、貸与端末に動画を置いて視聴してもらい、記録は教育記録簿など、これまで使っている様式に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の帳票の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。改訂が入る前提のテーマなので、配布した版と日付を記録に残しておくと、あとから「どの版のルールを見た人か」をたどれます。

LMS で受講状況を管理する(SCORM)

証跡を集約するなら

教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。拠点や部署が多く、どこまで行き渡ったかを一覧で確認したい場合や、改訂のたびに配り直して差分を追いたい場合に向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。ただし記録に残るのは「見たかどうか」であり、実際に判断できる状態になったかは別に確かめる必要があります。記録の様式や保存期間が社内の定めで決まっている場合は、その基準にあわせて運用を整えてください。

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SCORM 1.2 入門ガイド

受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。

SCORM 1.2 入門ガイドを読む →

セクション 5

つまずきやすいポイント

生成 AI の利用ルールの周知を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。

特定のサービスの操作説明を、教材に背負わせない — 画面の手順まで教材に入れると、そのサービスの表示が変わった時点で教材が古くなります。しかもこの分野は変化が早く、追いかけ続けるのは現実的ではありません。教材で扱うのは、どの作業に使ってよいか・何を入れてはいけないか・出てきたものをどう扱うかという判断の部分にとどめ、具体的な操作は所管部門が別に配る手順書や、サービス側の案内に寄せてください。判断は変わりにくく、画面は変わりやすい――この線で分けると教材が長持ちします。

「怖い話」で埋めない — 情報が漏れた事例や処分の話を並べると、受け手は使うのをやめるか、隠れて使うかのどちらかに寄ります。前者は業務が進まないだけですが、後者は所管部門から状況が見えなくなるという意味で、ルールが無い状態より扱いにくくなります。伝えるべきは「危ないからやめよう」ではなく「この範囲なら進めてよい/ここから先は相談してから」です。相談したことで責められないと分かる作りにしておくと、判断に迷った案件が所管部門に上がってくるようになります。

教材で権利や契約の判断まで踏み込まない — 生成物を社外に出してよいか、著作権や第三者の権利との関係をどう考えるか、取引先との契約に触れないか――このあたりを教材で断定すると、実際の判断と食い違ったときに責任の所在が曖昧になります。教材では「こういう場面は自分で決めずに所管部門へ」という道筋を示すところまでにし、判断は法務・知的財産・情報セキュリティの所管部門が持つ形にしてください。教材の役割は、迷う場面を見分けられるようにすることです。

使っていない人にも配る意味を、教材の中で示す — このテーマの教材は、日常的に使っている人だけのものになりがちです。しかし外部から届く文書や、社内の誰かが下書きに使った資料は、使っていない人の手元にも回ってきます。生成された内容がそのまま正しいとは限らないこと、気になったら確認してよいことは、全員に共通する話です。「詳しい人向け」の作りにすると、いちばん届いてほしい層が最初の数分で離れます。前提知識のない人に向けた言葉づかいで作り、詳しい人には自社編と部門編で足りるようにしてください。

改訂を前提に、更新の担当と契機を先に決める — 使ってよい範囲や入力の線引きは、契約や社内の方針が変われば見直しの対象になります。教材だけが古い版のまま残ると、規程と食い違ったことを全社に配り続ける状態になり、教材が無いよりも悪い影響が出ます。共通編・自社編・部門編を分けておき、更新の担当者と、見直しの契機(規程の改定、利用を認めるサービスの変更、契約条件の変更、インシデントの発生)をあらかじめ決めておいてください。台本を残しておけば、変わった箇所だけ直して同じ体裁で出し直せます。

セクション 6

よくある質問

動画を配れば、生成 AI の利用ルールの周知として足りますか?
本ガイドでは判断できません。周知の対象・内容・頻度・記録の様式は、業種、取り扱う情報の性質、利用するサービスの契約条件、自社の規程によって異なります。実務上は、動画で共通の考え方と自社で決めた範囲・相談先を揃え、規程や手順書は手元で参照できる形に置き、個別の可否判断は所管部門が行う、という組み合わせが取りやすい形です。何をどこまで整えるかは、社内の情報システム・情報セキュリティ・法務・知的財産の所管部門と経営層、必要に応じて外部の専門家にご確認ください。
どこから作ればよいですか?
1 本目は「共通編」に絞ってください。入力した情報がどう扱われうるか、生成された内容を確認する責任は使った人に残ること、迷ったら止めて相談すること――ここは部署や雇用形態が違ってもそのまま渡せます。次に、自社で決めた利用範囲と相談先をまとめた「自社編」を足すと、実際に効く形になります。部門ごとの場面は、その後で必要な部署から作れば十分です。すべてを一度に作ろうとすると完成しないまま止まりがちです。
ルールがまだ固まっていません。教材は先に作れますか?
共通編にあたる部分であれば、決定を待たずに作れます。入力した情報の扱い、生成された内容を確認する責任、迷ったときに止まって相談すること――このあたりは、どのサービスを認めるかが決まる前でも変わりません。一方で、使ってよい範囲や申請の窓口は、決まっていない段階で書くと実際の運用と食い違います。決まっていない部分は「所管部門に確認してから」と案内するにとどめ、確定してから自社編を足す進め方が安全です。
情報セキュリティ研修や情報漏えい防止の教育とは、どう使い分けますか?
重なる部分はありますが、置いている焦点が違います。「情報セキュリティ研修を動画で実施するには」で扱うのは情報の取り扱い全般、「情報漏えい防止・SNS 利用の教育を動画で実施するには」で扱うのは業務端末・持ち出し・投稿のルールです。本ガイドが扱うのは、業務の中で生成 AI を使うときの判断になります。個人情報の取り扱いに寄る内容は「個人情報保護研修を動画で実施するには」で扱っています。それぞれの教材で同じ話を繰り返さず、共通する原則は 1 本に寄せて相互に参照させると、どの本も短く保てます。
詳しい社員と、まったく使っていない社員で内容を分けるべきですか?
1 本目は分けないほうが進みます。共通編は前提知識のない人に向けた言葉づかいで作り、全員に同じものを渡してください。使っている人にとっては短時間で確認できる内容になりますし、使っていない人には「自分にも関係がある」と分かる入口になります。そのうえで、実際に業務で使う部署には自社編と部門編を追加で見てもらう形にすると、全体の本数を抑えられます。
ルールを見直したら、教材は毎回作り直しですか?
作り方しだいで、作り直しは避けられます。共通編(考え方)と自社編(使ってよい範囲・相談先)、部門編を別の本に分け、本編にはサービスの名称や画面の説明を書き込みすぎず、判断の基準と参照先で示しておけば、変わった部分の本だけを差し替えれば済みます。台本から作り直せる形にしておくと、変更箇所だけ直して同じ体裁で出し直せます。配布した版と日付を記録に残しておくと、どの版を見た人がどれだけいるかもたどれます。

ご紹介

周知教材づくりに使えるツールのご紹介

当社の Insight Training Studio は、PowerPoint を素材として研修・教育動画を作成するデスクトップアプリです。判断に迷う場面と自社で決めた範囲をスライドに整理し、解説をスピーカーノートに台本として集約 → 合成音声でナレーション生成 → MP4 書き出し、受講記録が必要なら SCORM 1.2 でパッケージ出力、という本ガイドの流れをそのまま 1 つのアプリ内で進められます。ルールの見直しがあったときは台本を直して書き出すだけで、同じ体裁のまま出し直せます。無料版をご用意していますので、まずは共通編の 1 本からお試しください。

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