HARMONIC insight
🧭 実務ガイド

BCP・事業継続の教育を動画で実施するには
計画書を配るのではなく、止まった日の初動を全拠点に届ける進め方

計画書は整った。表紙も目次も体制図もある。共有フォルダの所定の場所に置き、全社にメールで周知もした――それでも、地震で電車が止まった朝、基幹システムが動かなくなった月曜の午前、取引先の工場が停まったという一報が入った日に、その計画書を開いた人がどれだけいるかというと、心もとない。多くの職場で足りないのは計画そのものではなく、自分の持ち場で、最初の数時間に何をして、誰に何を伝えればよいのかが、あらかじめ共有されている状態 です。この土台を、拠点やシフトが分かれていても同じ内容で届け、見たことを記録に残すための進め方を整理します。総務・リスク管理で BCP の運用を任されている方、拠点をまたいで周知の仕組みを整える立場の方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、計画書を持ち場の行動に翻訳する進め方、記録の残し方、そして教材が古くなるのを防ぐ運用までを実務目線でまとめました。

所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 8 月

📩 公開・改訂のお知らせをメールで受け取る

EN / ZH 翻訳版・追加資料・ガイド改訂のお知らせを不定期にお送りします(解除はいつでも)。

送信時、お問い合わせフォームに必要事項が引き継がれます(最終送信はそちらで完了)。

セクション 1

なぜ BCP の「教育」を動画にするのか

事業を止めない仕事の中心は、教育よりも先に、どの業務を優先するかの決定、代替手段の確保、データや設備の備え、取引先との取り決めにあります。動画にできるのは、その手前で全員に共有しておきたい部分――何のための備えなのか、止まったときに自分の持ち場で最初に何をするのか、誰にどう伝えるのか、といった土台です。ここを動画にする組織が増えているのは、次の 3 つの理由によります。

📕

計画書は読まれる前提で書かれていない

BCP の文書は、体制、優先業務、目標とする復旧の考え方、手順と、必要なことが網羅的に書かれています。ただし網羅的であることと、当日に開いて動けることは別です。多くの従業員にとって必要なのは全体像ではなく、「自分の持ち場では、まず何をするか」の数行だけ。動画にすると、この数行を持ち場ごとに切り出して渡せます。

🏢

拠点・部署・シフトが分かれ、全員を集められない

本社、営業所、工場、店舗、在宅勤務、交代勤務――同じ時間に集まって説明を聞ける組織のほうが少なくなりました。分けて開催すれば説明する人によって強調点が変わり、拠点ごとに理解の中身がずれます。ずれたまま当日を迎えると、連絡の順序や集約先の認識違いという形で表に出ます。動画にしておけば、拠点が増えても同じ内容が行き渡ります。

🔁

入社・異動のたびに、同じ説明が最初から必要になる

備えは全員がそろっていて初めて機能します。ところが人は入れ替わり、年度が替わり、組織も変わります。そのたびに口頭で説明し直すのは負担が大きく、後回しになりがちです。動画にしておけば、あとから入った人にも同じものをそのまま渡せて、演習の前に見てもらう位置づけにもできます。

※ 本ガイドは BCP(事業継続計画)にまつわる教育を動画教材として運用する方法を整理するものであり、計画の策定や教育の実施が義務づけられていることを示すものでも、法令・規格・各種ガイドラインへの適合を示すものでもありません。計画に定めるべき内容、優先する業務や目標とする復旧の考え方、教育や演習の対象・頻度・記録の様式は、業種、規模、拠点の構成、取引先との取り決め、自社の方針によって異なります。何をどこまで整えるかの判断は、社内のリスク管理・事業継続を所管する部門、経営層、必要に応じて外部の専門家や所管の行政機関にご確認ください。

セクション 2

扱う内容の種類と動画化の相性

「BCP の教育」とひとことで言っても、その中身は、組織が変わっても通用する考え方から、持ち場ごとの初動、システムや取引先に依存する段取り、そして実際に手を動かして確かめる演習まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わるため、まずどこを動画にするかを切り分けると、作る本数も更新の手間も見通しが立ちます。

扱う内容変わりやすさ動画化との相性進めるときのポイント
共通の考え方(何のための備えか、防災=人の安全との違い、優先する業務があるのはなぜか、発動の合図と誰が判断するか、情報を一か所に集める理由)変わりにくい全員に同じ内容を届ける用途に向く1 本目はここから。部署や拠点が違っても同じものを渡せる
持ち場ごとの初動(安否の伝え方、出社・待機の判断をどう受け取るか、連絡が取れないときの既定の動き、最初の数時間ですること)組織改編・連絡手段の 変更で変わる向くが、部署別に本を分けておく必要がある共通編と別の本に分け、変わった部署の本だけ差し替える
代替手段と復旧の段取り(システムが止まったときの手作業への切替、代替の拠点や設備、取引先・顧客への連絡の順序)業務・システム・契約の 変更で変わりやすい一部向く。前提の共有まで「自社ではこう決めている」に絞る。決めごとの中身は所管部門が持つ
安否確認の一斉送信テスト、机上演習、代替拠点の立ち上げ、当日の状況判断と意思決定その時・その 状況による演習と実地で行うものであり、動画で置き換えるものではない動画は演習の前提を揃えるところまで。演習そのものは従来どおり

※ 何をどこまで教材に載せるか、どの範囲の人を対象とするかは、業種、拠点の構成、想定する事象、自社の方針によって異なり、本ガイドでは判断できません。優先する業務の決定、目標とする復旧の考え方、体制や権限の定め、取引先との取り決めに関わる事項は、教材で決めるものではなく、リスク管理・事業継続を所管する部門と経営層の領域です。社内の所管部門にご確認のうえ、決まっている内容を教材に反映してください。

セクション 3

実務の進め方 — 計画書を「持ち場の最初の 1 時間」に翻訳する

BCP の教育を動画化するときにつまずきやすいのは、計画書の構成をそのまま章立てにしてしまい、体制図と用語の説明で前半が終わってしまうパターンです。受け手が知りたいのは組織図の中の自分の位置ではなく、その日の朝に何をするかです。手元に計画書と、拠点ごとの連絡体制、直近の演習の記録を揃えたら、次の順で進めると形になります。

計画書を「持ち場ごとの最初の 1 時間」に書き直す — まず、想定する事象(地震などの災害、基幹システムの停止、感染症の広がり、取引先や物流の停止)ごとに、部署の代表的な担当者が最初の 1 時間に何をするかを、箇条書きで洗い出してください。安否をどう伝えるか、誰の指示を待つのか、待たずに始めてよいことは何か、逆にやってはいけないことは何か。ここが具体的に書けない部分は、教材の問題ではなく決めごとが残っている部分です。所管部門に戻し、決まったものから教材にします。教材づくりは、計画の抜けが見つかる作業でもあります。

1 本目は「共通編」に絞る — 部署別から作り始めると本数が膨らみ、途中で止まります。まずは、何のための備えなのか、人の安全を確保する話(防災)とその後に業務をどう続けるかの話(事業継続)は地続きだが目的が違うこと、優先する業務を決めてある理由、発動の合図は誰がどう出すのか、情報をどこに集めるのか――この共通編だけで 1 本にすると、拠点や職種が違ってもそのまま渡せます。部署別の本は、この共通編を見た前提で短く作れます。

連絡先と個人名を教材に入れない — 教材が古くなる原因の大半はここです。担当者の氏名、携帯番号、部署名、システムの画面――これらを本編に埋め込むと、異動や組織改編のたびに動画を作り直すことになり、やがて更新が止まります。教材では「安否は〇〇の役割の人に集約する」「連絡先の一覧は掲示と配布カードで確認する」のように役割と参照先で示し、変わりやすい情報は教材の外(掲示、カード、社内の一覧)に逃がしてください。

場面で区切って短く作る — 「BCP のすべて」を 1 本にまとめると、見返したい場面にたどり着けず、結局最初の 1 回しか見られません。「共通編」「持ち場の初動編」「システムが止まったとき編」「連絡と報告編」のように区切っておくと、部署に応じて必要な本だけを渡せますし、体制が変わったときも差し替えが一部で済みます。演習の直前に見てもらう本を決めておくと、演習の時間を実際の動きに使えます。

ナレーションは目的に合わせて選ぶ — 自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。当面内容を変える予定がなければ録音でも構いません。一方で、組織改編や演習のたびに一部を直したい場合や、担当が代わっても更新していく前提の場合、日本語が母語でない方が働く職場で多言語版も用意したい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。現場や在宅では音を出しにくいこともあるため、字幕を併せて用意しておくと視聴の妨げになりません。

🎬

研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド

BCP の教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。

研修動画の作り方を読む →

セクション 4

視聴記録をどう残すか

誰がどの教材を見たかを把握しておくと、拠点や部署に行き渡っているか、体制が変わったあとの配り直しが届いたかを確認できます。残し方は大きく 2 つです。

動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)

まず始めるなら

共有フォルダや拠点の端末、貸与端末に動画を置いて視聴してもらい、記録は教育記録簿など、これまで使っている様式に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の帳票の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。事象の発生時にも参照させたい教材は、社内のネットワークや共有基盤が使えない場合に備えて、端末内やオフラインでも開ける形をあわせて用意しておくと確実です。

LMS で受講状況を管理する(SCORM)

証跡を集約するなら

教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。拠点や部署が多く、どこまで行き渡ったかを一覧で確認したい場合に向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。ただし記録に残るのは「見たかどうか」であり、当日に動ける状態かどうかは演習で確かめる必要があります。記録の様式や保存期間が社内の定めで決まっている場合は、その基準にあわせて運用を整えてください。

📘

SCORM 1.2 入門ガイド

受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。

SCORM 1.2 入門ガイドを読む →

セクション 5

つまずきやすいポイント

BCP の教育を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。

「配ったこと」と「動けること」を混同しない — 計画書を全社に周知した、教材を配信した、受講率が揃った――これらはすべて配ったことの記録であって、止まった日に動けることの証明ではありません。教材の目的は、当日に迷う場面を減らすことです。作るときは「この本を見た人は、明日の朝に何ができるようになっているか」を 1 行で書いてから中身に入ってください。この 1 行が書けない本は、たいてい計画書の要約になっています。逆に、受講率が高いことを備えができている根拠として扱わないことも大切です。確かめる場は演習です。

前提が変われば、古い教材は無い状態より危険になる — 組織改編で連絡の集約先が変わる、システムが更改されて代替手段が変わる、拠点が増減する、取引先との取り決めが見直される――このとき教材だけが以前の内容のまま残ると、見た人は古い前提のまま動きます。何も渡していない状態より危険です。更新の担当と、更新する契機(組織改編、システム更改、演習のあと、計画の見直し)をあらかじめ決め、差し替えたら旧版は共有場所から下げてください。教材の画面に、いつ時点の計画に基づく内容かを入れておくと、見る側でも判断できます。

教材の置き場所も、一緒に止まることがある — 社内システムや共有フォルダの上にしか教材が無いと、その仕組みが止まった事象では開けません。教育用の教材(落ち着いた状態で学ぶもの)と、当日に参照するもの(手元のカード、掲示、印刷した一枚)は分けて考えてください。動画は前者の役割を担い、当日に必要な数行は紙や端末内に置いておく、という組み合わせが現実的です。教材の中でも「当日はここを見る」と参照先を示しておくと、両方がつながります。

個人の事情に踏み込まない・不安を煽らない — 事象の当日にどう動けるかは、家族の状況、住んでいる場所、通勤の手段によって人それぞれ違います。教材で「必ず出社する」といった前提を断定すると、実際には動けない人が声を上げにくくなります。まず自分と家族の安全が優先されること、動けない場合にどう伝えればよいかを教材の中で明示してください。安否や家族に関する情報を扱う場合は、収集の範囲と保管の方法が自社の情報管理のルールに沿っているかを、所管部門とあわせて確認してください。被害の映像や深刻な事例を並べて危機感を煽る作りも、繰り返し見る教材には向きません。

演習を動画で置き換えず、演習の結果を教材に戻す — 安否確認の一斉送信が実際に届くか、手作業への切替が回るか、代替の拠点で立ち上がるか、机上演習で判断が割れないか――これらは、やってみてはじめて分かります。教材の位置づけは「演習の前に前提を揃えるところまで、演習は従来どおり行う」と明示してください。そのうえで、演習で出た食い違いや詰まった箇所は、次の版の教材に反映します。教材 → 演習 → 教材の往復が回り始めると、計画も教育も現実に近づいていきます。

セクション 6

よくある質問

動画を見せれば、BCP の教育として足りますか?
本ガイドでは判断できません。教育や演習の対象・内容・頻度・記録の様式は、業種、規模、拠点の構成、想定する事象、取引先との取り決め、自社の方針によって異なります。実務上は、動画で共通の考え方と持ち場ごとの初動を揃え、安否確認のテストや机上演習、代替手段の確認は従来どおり行う、という組み合わせが取りやすい形です。何をどこまで整えるかは、社内のリスク管理・事業継続を所管する部門と経営層にご確認ください。
どこから作ればよいですか?
1 本目は「共通編」に絞ってください。何のための備えなのか、発動の合図は誰がどう出すのか、情報をどこに集めるのか――ここは拠点や職種が違ってもそのまま渡せます。次に、人数が多い部署や、止まると影響が大きい業務の持ち場編を足していくと、実際に効く形になります。すべてを一度に作ろうとすると完成しないまま止まりがちです。
防災・避難訓練の教材とは、どう使い分けますか?
目的が違います。「防災・避難訓練の教育を動画で実施するには」で扱うのは、揺れ始めたときの身の守り方や避難経路、集合と点呼といった、人の安全を確保するまでの部分です。本ガイドが扱うのは、その安全が確保されたあとに、業務をどう続けるか・どう戻すかの部分になります。地続きなので、共通編の冒頭でこの違いに触れておくと、受け手が両方の教材を混同しません。重なる部分は既存の教材を活かし、それぞれの本を短く保つのがおすすめです。
計画書がまだ十分に整っていないのですが、教材は作れますか?
決まっている範囲であれば作れますし、作る過程で決まっていない部分が見つかるという効き目もあります。ただし、優先する業務、目標とする復旧の考え方、体制や権限、取引先との取り決めといった決めごとを、教材づくりの都合で決めてしまわないでください。それらはリスク管理・事業継続を所管する部門と経営層が決める事項です。教材の側は、決まったものを分かる形にするところまでを担当し、決まっていない部分は所管部門に戻す、という線を引いておくと安全です。
連絡体制や担当者が変わったら、教材は毎回作り直しですか?
作り方しだいで、作り直しは避けられます。共通編と部署別編を別の本に分け、本編には個人名や連絡先を入れず役割と参照先で書いておけば、変わった部署の本だけを差し替えれば済みます。台本から作り直せる形にしておくと、変更箇所だけ直して同じ体裁で出し直せます。あわせて、更新の担当と契機(組織改編、システム更改、演習のあと、計画の見直し)を先に決めておくと、更新が止まりません。
社内システムの操作研修や、情報漏えい防止の教材とはどう使い分けますか?
平常時の使い方を扱うのが「社内システムの操作研修を動画で実施するには」、日々の情報の取り扱いのルールを扱うのが「情報漏えい防止・SNS 利用の教育を動画で実施するには」、そしてシステムや業務が止まったときにどう動くかを扱うのが本ガイドです。重なりやすいのはシステム停止時の連絡や代替手段の部分なので、そこだけは本ガイド側に寄せ、平常時の教材からは参照でつなぐと、どちらの本も短く保てます。

ご紹介

BCP の教材づくりに使えるツールのご紹介

当社の Insight Training Studio は、PowerPoint を素材として研修・教育動画を作成するデスクトップアプリです。持ち場ごとの初動をスライドに整理し、解説をスピーカーノートに台本として集約 → 合成音声でナレーション生成 → MP4 書き出し、受講記録が必要なら SCORM 1.2 でパッケージ出力、という本ガイドの流れをそのまま 1 つのアプリ内で進められます。無料版をご用意していますので、まずは共通編の 1 本からお試しください。

  • PowerPoint から教育動画(MP4)を生成
  • 合成音声(TTS)によるナレーション — 47 言語に対応
  • SCORM 1.2 パッケージ出力(LMS 配信・受講記録向け)
  • 無料版あり・キー不要ですぐに使えます

導入のご相談は info@h-insight.jp まで