HARMONIC insight
🧭 実務ガイド

転倒・墜落の予防教育を動画で実施するには
年齢で線を引かず、つまずき・すべり・段差の場面を全員で共有する進め方

台車を押しながら段差を越えた。抱えた荷物で足元が見えなかった。濡れた床を、急いでいて普段どおりの歩幅で歩いた。脚立の最上部に片足を掛けて手を伸ばした――転倒や墜落・転落は、危険な作業の最中ではなく、毎日の「歩く・運ぶ・またぐ・のぼる」の中で起きます。それだけに、危険作業のような教育の機会が用意されないまま、朝礼の「足元に気をつけて」で終わっている現場は少なくありません。この、転びやすい条件と、職場の中でそれが起きている場所を、全員に同じ内容で届けて記録に残す ための進め方を整理します。安全衛生の担当者、製造・物流・介護など現場の教育を任されている方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、ヒヤリハットと見取り図から作る進め方、視聴記録の残し方、そして「本人の不注意」で終わらせないための作り方までを実務目線でまとめました。特別な知識は前提としません。

所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 8 月

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セクション 1

なぜ転倒・墜落の予防教育を動画にするのか

転ばずに歩ける職場をつくる仕事の大半は、実は教育ではなく、床・段差・照明・通路・作業の段取りといった環境の側にあります。動画にできるのは、その手前で全員に共有しておきたい部分――どんな条件が重なると転びやすいのか、この職場のどこでそれが起きているのか、危ないと気づいたときに誰にどう知らせるのか、といった土台です。ここを動画にする現場が増えているのは、次の 3 つの理由によります。

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日常の動作なので、教育の機会がつくられにくい

機械の操作や有機溶剤の取り扱いには教育の場がありますが、「歩く」「運ぶ」「またぐ」には、教える機会そのものが用意されないことが多くあります。誰でもできる動作だからです。結果として、注意喚起の掲示と朝礼のひとことだけになり、条件が重なったときにどうすればよいかは共有されないまま残ります。動画にしておけば、日常動作についてもまとまった説明を、全員に同じ形で渡せます。

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「気をつける」では変わらない場面がある

転倒は、注意力が足りないから起きるというより、足元が見えない、床が滑る、急いでいる、両手がふさがっている、明るさが急に変わる、といった条件が重なったときに起きます。この重なりは、文字の注意書きでは伝わりにくいものです。実際の通路や階段、荷物を抱えた状態を映して「この状態では何が見えていないか」を示すほうが、自分の作業に引き寄せて受け取ってもらえます。

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対象が全員で、しかも全員を集められない

転倒はどの部署でも起こるため、対象は事実上その職場にいる全員です。一方で、交代勤務、複数拠点、短時間勤務の方や協力会社の方まで含めて同じ時間に集めるのは簡単ではありません。分けて開催すれば同じ話を繰り返すことになり、回ごとに内容も揺れます。動画にしておけば、作業の切れ目に各自で視聴でき、あとから入った人にも同じものをそのまま渡せます。

※ 本ガイドは転倒・墜落の予防に関する教育を動画教材として運用する方法を整理するものであり、教育の実施義務や法令・指針への適合を示すものではありません。実施すべき内容・対象・頻度・記録の様式は、業種、作業の内容、職場の状況、自社および元請・発注者の安全衛生管理の定めによって異なります。高年齢の従業員が働く職場については、厚生労働省から「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」が示されていますが、自社にどう当てはめるかは個々の状況によります。また、高所作業や脚立・はしごの使用など、法令上の定めが関わる作業については、その要件を本ガイドの教材で満たせるものではありません。判断にあたっては、自社の安全衛生管理部門、産業医・保健師などの産業保健スタッフ、所轄の労働基準監督署や中央労働災害防止協会など所管の機関にご確認ください。

セクション 2

扱う内容の種類と動画化の相性

「転倒防止の教育」とひとことで言っても、その中身は、どの職場でも変わらない考え方から、自分たちの職場の特定の場所、そして実際に体を動かして確認する部分まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わるため、まずどこを動画にするかを切り分けると、作る本数も更新の手間も見通しが立ちます。

扱う内容変わりやすさ動画化との相性進めるときのポイント
全社で共通する考え方(転びやすい条件の重なり、両手をふさがない運び方、急がなくてよい段取り、気づいたときの知らせ方)決めたら 長く使える全員に同じ内容を届ける用途に向く1 本目はここから。部署が違っても同じものを渡せる
職場ごとの場所(滑りやすい床、段差、階段、暗い区画、通路に置かれる物、屋外や冬季の凍結)レイアウト・ 季節で変わる向くが、更新前提で本を分けておく必要がある共通編と別の本に分け、変わった職場の本だけ差し替える
加齢にともなって誰にでも起きる変化(つまずく高さ、バランスの戻りにくさ、暗さへの目の慣れ、視野の見え方)変わりにくい向く。ただし年齢で線を引かない置き方にする特定の人向けにせず、全員向けの教材の中に置く
実際の歩行や運搬の確認、脚立・はしご・高所作業、体力面の評価や個別の健康相談その場・その 人による実地または専門職が行うものであり、動画で置き換えるものではない動画は前提の共有まで。現場での確認と専門職の関与は従来どおり

※ 何をどこまで教材に載せるか、どの範囲の人を対象とするかは、作業の内容や職場の状況、自社の安全衛生管理の定めによって異なり、本ガイドでは判断できません。特に、高所作業や脚立・はしごの使用など法令上の定めが関わる作業、および従業員の体力や健康状態に関わる取り組みについては、動画教材でその要件を満たせるものではありません。自社の安全衛生管理部門、産業保健スタッフ、所轄の労働基準監督署にご確認ください。

セクション 3

実務の進め方 — ヒヤリハットと見取り図から作る

転倒防止の動画化でつまずきやすいのは、一般的な安全の心得から作り始めてしまい、自分たちの職場で実際に転びかけている場所に届かないパターンです。まずは職場の見取り図と、これまでに集まっているヒヤリハットや不休災害の記録を並べて、実際に起きている場所から 1 本作ってみると、自社に合った内容と手間の見当がつきます。

見取り図の上に、実際に起きた場所を落とす — ヒヤリハット報告、転倒しかけた話、通路で「あそこは滑る」と言われている場所を見取り図に印を付けていくと、教材で扱うべき地点がはっきりします。台車の通る段差、雨の日の出入口、荷を抱えて降りる階段、外の喫煙所までの経路――教材の題材をここから選ぶと、視聴する側にとって「毎日通るあの場所」の話になります。一般的な注意事項を並べるより、作る手間も少なく済みます。

「高齢者向け」という枠で作らない — 転倒は高年齢の方に多いとされますが、対象を年齢で区切った教材にすると、受け取る側は「自分が弱い側に分類された」と身構えます。該当する人が職場で少ない場合は、誰のための教材かが分かってしまうという問題もあります。加齢にともなう変化はいずれ誰にでも起きる条件として、全員向けの教材の中に置いてください。「つま先が上がる高さは思っているより低い」「暗いところに入った直後は目が慣れていない」といった説明は、若い人にとっても、夜勤明けや荷物を抱えたときに当てはまる話です。年齢ではなく条件で語るほうが、結果として広く届きます。

教材を配ると同時に、直せる場所は直す — 「気をつけましょう」だけを配ると、危ないと分かっている場所がそのまま残り、教材は現場から本気にされなくなります。滑り止め、段差の解消や表示、照明の追加、通路に物を置かない運用、台車を押しながら見えない範囲を減らす動線――教育と環境の改善は組で回すものです。教材の中で「報告があったのでここを直しました」と実際の改善を紹介すると、報告することに意味があると伝わり、次の報告が上がりやすくなります。

場面で区切って短く作る — 「転倒防止のすべて」を 1 本にまとめると、見返したい場面にたどり着けず、結局最初の 1 回しか見られません。「歩く・運ぶ編」「階段・段差編」「屋外・冬季編」「脚立・高所の前提編」のように区切っておくと、部署に応じて必要な本だけを渡せますし、職場が変わったときも差し替えが一部で済みます。屋外や冬季の内容は、季節の前に配り直す運用にしておくと、毎年の周知がそのまま回ります。

ナレーションは目的に合わせて選ぶ — 自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。当面内容を変える予定がなければ録音でも構いません。一方で、職場の変更や季節ごとに一部を直したい場合や、担当が代わっても更新していく前提の場合、日本語が母語でない方が働く職場で多言語版も用意したい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。現場や休憩室では音を出しにくいこともあるため、字幕を併せて用意しておくと視聴の妨げになりません。

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研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド

転倒防止の教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。

研修動画の作り方を読む →

セクション 4

視聴記録をどう残すか

誰がどの教材を見たかを把握しておくと、全員に行き渡っているか、季節の前の配り直しが届いたかを確認できます。残し方は大きく 2 つです。

動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)

まず始めるなら

共有フォルダや現場のタブレット、休憩室の端末に動画を置いて視聴してもらい、記録は教育記録簿など、これまで使っている様式に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の帳票の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。短時間勤務の方や協力会社の方にも見てもらう場合は、この形が取り回しやすいことが多い方法です。

LMS で受講状況を管理する(SCORM)

証跡を集約するなら

教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。拠点や部署が多く、どこまで行き渡ったかを一覧で確認したい場合に向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。ただし記録に残るのは「見たかどうか」であり、職場が安全に歩ける状態かどうかは現場での確認が必要です。記録の様式や保存期間が社内の定めで決まっている場合は、その基準にあわせて運用を整えてください。

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SCORM 1.2 入門ガイド

受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。

SCORM 1.2 入門ガイドを読む →

セクション 5

つまずきやすいポイント

転倒・墜落の予防教育を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。

「本人の不注意」で終わらせない — 転倒は、当人にも「気をつけていれば防げた」と思わせやすい災害です。教材が注意喚起だけで組み立てられていると、転んだ人・転びかけた人が悪いという空気ができ、報告が上がらなくなります。報告が止まれば、危ない場所は見えないまま残ります。教材では、条件が重なれば誰でも転ぶという前提を先に置き、「なぜその場所で起きるのか」と「知らせればどう変わるのか」に話を寄せてください。実際に改善した例を入れておくと、この姿勢が言葉だけでないことが伝わります。

年齢で線を引かない・個人を名指ししない — 「高年齢の方は特に」といった呼びかけは、配慮のつもりでも、受け取る側には区別として届きます。ヒヤリハットの事例を扱うときも、年齢・班名・日時など当人が特定される情報は落としてください。加齢にともなう変化は、誰にでも起きる条件として全員向けに扱い、必要な配慮(休憩、照明、作業の組み替え)は「そうしてほしい人が言い出せる仕組み」の側で用意するほうが、教材としても職場としても機能します。

実際の歩行の確認、脚立・高所作業の指導を動画で置き換えない — 床の滑り方、荷物を持ったときの視界、その階段の段の高さは、その場に立ってはじめて分かります。脚立やはしご、高所での作業については、器具の点検や使い方の指導、法令上の定めが関わる範囲があり、動画教材でその要件を満たせるものではありません。教材の位置づけは「前提を押さえるところまで、現場での確認と指導は従来どおり行う」と明示し、要件については自社の安全衛生管理部門や所轄の労働基準監督署にご確認ください。

体力や健康の話に踏み込みすぎない — 転倒防止の文脈では、体力測定や運動の取り組みが話題になることがあります。ただし、身体機能の評価や個別の健康状態に関わる判断は専門職の領域です。教材で個人の体力を評価する、特定の運動を全員に課す、といった形にすると、受け取り方によっては不利益な扱いに感じられることもあります。健康に関わる内容を扱う場合は、産業医・保健師など産業保健スタッフの確認を経てから教材にし、参加を強いない形で案内してください。

季節とレイアウトの変更で差し替える — 通路の変更、棚や設備の移設、工事にともなう迂回、そして凍結や雨天といった季節の条件――職場の足元は思っているより変わります。古い動線のまま残った教材は、教材のとおりに歩いた人を今は危険な場所へ誘導することになり、教材が無い状態よりかえって危険です。屋外・冬季編は季節の前に配り直す、レイアウト変更を決める部署と教材を管理する担当のあいだで見直しの流れを決めておく――差し替えたら旧版は共有場所から下げ、どの版を見ればよいかが分かる状態にしておきます。

セクション 6

よくある質問

動画を見せれば、転倒防止の教育として足りますか?
本ガイドでは判断できません。実施すべき内容・対象・頻度・記録の様式は、業種、作業の内容、職場の状況、自社および元請・発注者の安全衛生管理の定めによって異なります。実務上は、動画で転びやすい条件と職場の場所を共有し、現場での確認と環境の改善は従来どおり進める、という組み合わせが取りやすい形です。要否の判断は自社の安全衛生管理部門や所轄の労働基準監督署にご確認ください。
高年齢の従業員だけを対象にした教材を作るべきでしょうか?
実務上は、年齢で対象を区切らず、全員向けの教材の中で「条件が重なると誰でも転ぶ」という形で扱うほうが、受け取られやすく運用も続きます。対象を年齢で区切ると、該当する人が特定されたり、身構えられたりしやすいためです。ただし、どの範囲の人にどう案内するかは職場の状況によって異なります。高年齢の従業員の安全と健康に関わる取り組み全体をどう組み立てるかは、産業保健スタッフや自社の安全衛生管理部門とあわせてご検討ください。
どこから作ればよいですか?
転びやすい条件の重なり(足元が見えない、床が濡れている、急いでいる、両手がふさがっている、明るさが急に変わる)と、気づいたときの知らせ方を 1 本にまとめるところから始めると、部署が違ってもそのまま渡せる教材になります。次に、ヒヤリハットの記録から件数の多い場所を題材にした本を足していくと、実際の職場で効く教材になります。すべてを一度に作ろうとすると完成しないまま止まりがちです。
脚立・はしごや高所作業も、この教材で扱えますか?
扱えるのは前提の共有までです。脚立・はしごの使用や高所での作業には、器具の点検や使い方、法令上の定めが関わる範囲があり、動画教材でその要件を満たせるものではありません。教材では「必要な教育を受けたうえで、この職場ではこう運用する」という位置づけにとどめ、要件の判断は自社の安全衛生管理部門や所轄の労働基準監督署にご確認ください。
体力チェックや運動の取り組みも教材に入れられますか?
身体機能の評価や個別の健康状態に関わる判断は専門職の領域であり、教材で行うものではありません。健康に関わる内容を扱う場合は、産業医・保健師など産業保健スタッフの確認を経たうえで教材にし、個人を評価する形にしない、参加を強いない、といった配慮を添えて案内してください。取り組みの設計そのものについては、産業保健スタッフや所管部門にご相談ください。
新規入場者教育や危険予知(KY)活動、構内交通安全の教材とは、どう使い分けますか?
現場に初めて入る人へその現場の決まりをまとめて伝えるのが「新規入場者教育を動画で実施するには」、危険を先に見つける考え方そのものを扱うのが「危険予知(KY)活動の教育を動画で実施するには」、人と車両の行き交いに絞るのが「構内交通安全の教育を動画で実施するには」、そして日常の「歩く・運ぶ・またぐ」で起きる転倒・墜落に絞るのが本ガイドです。重なる部分は既存の教材を活かし、転倒防止では「どの条件が重なると足元が見えなくなるか」に絞ると、作る本数を抑えられます。

ご紹介

転倒防止の教材づくりに使えるツールのご紹介

当社の Insight Training Studio は、PowerPoint を素材として研修・教育動画を作成するデスクトップアプリです。職場の見取り図や現場の写真をスライドに整理し、解説をスピーカーノートに台本として集約 → 合成音声でナレーション生成 → MP4 書き出し、受講記録が必要なら SCORM 1.2 でパッケージ出力、という本ガイドの流れをそのまま 1 つのアプリ内で進められます。無料版をご用意していますので、まずは全社共通編の 1 本からお試しください。

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