HARMONIC insight
🧭 実務ガイド

ビジネスと人権の教育を動画で実施するには
言葉の解説で終わらせず、自分の部署で起きる場面に落として届ける進め方

人権方針を掲げ、取引先向けの依頼文も整えた。取引先や顧客から取り組み状況を尋ねられる場面も増えてきた――それでも、調達の担当者が見積書を前にしたとき、現場の責任者が繁忙期のシフトを組むとき、採用の面接で応募者と向き合うときに、「これは人権に関わる場面だ」と気づけるかというと、そこは別の話です。多くの職場で足りないのは方針そのものではなく、自分の仕事のどの場面が人権に関わっていて、気づいたときに誰へどう伝えればよいのかが、あらかじめ共有されている状態 です。この土台を、部署や拠点が分かれていても同じ内容で届け、見たことを記録に残すための進め方を整理します。総務・サステナビリティ・調達・人事で人権に関する取り組みを任されている方、拠点や取引先をまたいで周知の仕組みを整える立場の方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、方針を場面に翻訳する進め方、記録の残し方、そして教材が形だけの受講になるのを防ぐ作り方までを実務目線でまとめました。

所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 8 月

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セクション 1

なぜ「ビジネスと人権」の教育を動画にするのか

人権に関する取り組みの中心は、教育よりも先に、方針を定めること、自社と取引先で何が起きているかを把握すること、問題が見つかったときの相談や是正の道筋を用意することにあります。動画にできるのは、その土台として全員に共有しておきたい部分――何が人権に関わる場面なのか、自社は何を方針として掲げているのか、気づいたときに誰へ伝えるのか、といったところです。ここを動画にする組織が増えているのは、次の 3 つの理由によります。

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「人権」という言葉のままでは、自分の仕事と結びつかない

方針文や解説資料は、国際的な考え方や用語を正確に説明しようとするほど抽象的になります。読んだ人が「大事なことは分かったが、自分は何をすればよいのか」で止まってしまうのはよくあることです。動画にすると、見積の依頼、シフトの組み方、面接での質問、寮や住まいの手配といった、実際に起きる場面から入る形で作れます。抽象的な原則を先に説明するのではなく、場面から入って原則に戻る順番にできるのが動画の利点です。

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関係する場面が部署ごとに違い、まとめて話しにくい

調達では取引先の作業環境や納期の設定、人事では採用・処遇・外国人材の受け入れ、現場では労働時間や安全、営業や広報では表現の配慮――関係する場面は部署ごとに違います。全社を集めて一度に話すと、どの部署にとっても自分ごとになりにくく、部署ごとに開催すれば説明する人によって強調点が変わります。動画にしておけば、共通の土台は同じものを全社に渡し、部署ごとの場面編だけを足していく形が取れます。

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入社・異動・取引先の入れ替わりのたびに、同じ説明が必要になる

人権への配慮は、担当者が代わっても続いていることに意味があります。ところが人は入れ替わり、担当する取引先も変わります。そのたびに口頭で説明し直すのは負担が大きく、後回しになりがちです。動画にしておけば、あとから加わった人にも同じものをそのまま渡せますし、部署異動の際に該当する場面編だけを見てもらう、といった使い方もできます。

※ 本ガイドは「ビジネスと人権」に関する社内教育を動画教材として運用する方法を整理するものであり、教育の実施が義務づけられていることを示すものでも、法令・国際的な指導原則・各種ガイドラインへの適合や、人権に関する取り組みが十分であることを示すものでもありません。方針に定めるべき内容、取り組みの範囲、教育の対象・内容・頻度・記録の様式、取引先への働きかけの進め方は、業種、規模、取引の構造、取引先や顧客との取り決め、自社の方針によって異なります。何をどこまで整えるかの判断は、社内の人権・サステナビリティ・法務・人事の所管部門および経営層、必要に応じて外部の専門家にご確認ください。

セクション 2

扱う内容の種類と動画化の相性

「人権の教育」とひとことで言っても、その中身は、組織が変わっても通用する考え方から、自社が定めた方針と相談の道筋、部門ごとに関係する具体的な場面、そして実際に申立てを受けたときの対応まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わるため、まずどこを動画にするかを切り分けると、作る本数も更新の手間も見通しが立ちます。

扱う内容変わりやすさ動画化との相性進めるときのポイント
共通の考え方(人権が仕事のどの場面に関わるのか、差別・ハラスメント・過重な労働・強制的な働かせ方・年少者の就労といった類型、自社だけでなく取引先や委託先での出来事も関わりうること)変わりにくい全員に同じ内容を届ける用途に向く1 本目はここから。部署や拠点が違っても同じものを渡せる
自社の方針と相談・通報の道筋(人権方針に何を書いているか、気づいたときにどこへ伝えるか、伝えた人が不利益を受けない扱いになっていること)方針改定・体制変更で 変わる向くが、共通編と別の本に分けておく必要がある自社編として独立させ、方針を改定したらこの本だけ差し替える
部門ごとの場面(調達での取引先の作業環境や納期の設定、人事での採用・処遇・外国人材の受け入れ、現場での労働時間と安全、広報・営業での表現の配慮)取引・体制・業務の 変更で変わりやすい一部向く。判断の前提を共有するところまで「自社ではこう考える」に絞る。個別の判断は所管部門が持つ
個別の申立てへの対応、相談窓口での聞き取り、取引先の状況の確認と是正の働きかけ、救済の手続きその時・その 状況による実地で行うものであり、動画で置き換えるものではない動画は「気づいてつなぐ」まで。対応は所管部門と定められた手順で

※ 何をどこまで教材に載せるか、どの範囲の人を対象とするかは、業種、取引の構造、拠点の構成、自社の方針によって異なり、本ガイドでは判断できません。方針の内容、取り組みの範囲、相談・通報の仕組みの設計、取引先への働きかけや取引の継続に関わる判断は、教材で決めるものではなく、人権・サステナビリティ・法務・人事の所管部門と経営層の領域です。社内の所管部門にご確認のうえ、決まっている内容を教材に反映してください。

セクション 3

実務の進め方 — 方針を「自分の部署で起きる場面」に翻訳する

この分野の教材でつまずきやすいのは、国際的な考え方や用語の解説から始めてしまい、前半が終わる頃には受け手が自分の仕事と結びつけられなくなっているパターンです。受け手が知りたいのは概念の定義ではなく、自分の担当業務のどこで気をつけるかです。手元に自社の人権方針、相談・通報の仕組みの説明、これまで寄せられた相談や現場の困りごとを揃えたら、次の順で進めると形になります。

方針と現場の困りごとから「場面」を洗い出す — まず、部署ごとに、人権に関わりうる場面を箇条書きで洗い出してください。調達なら短すぎる納期や急な仕様変更が取引先の働き方にどう跳ね返るか、人事なら採用の条件設定や外国人材の受け入れに伴う住まい・費用の扱い、現場なら繁忙期の労働時間や休憩の取り方、広報なら表現が特定の人を傷つけないか。ここは想像で埋めず、実際に寄せられた相談、現場から上がっている困りごと、取引先から受けている質問を材料にしてください。具体的に書けない部分は、教材の問題ではなく決めごとが残っている部分です。所管部門に戻し、決まったものから教材にします。

1 本目は「共通編」に絞る — 部署別から作り始めると本数が膨らみ、途中で止まります。まずは、人権が特別な誰かの話ではなく日々の仕事の中にあること、自社だけでなく取引先や委託先で起きていることも関わりうること、自社は何を方針として掲げているのか、気づいたときにどこへ伝えるのか――この共通編だけで 1 本にすると、部署や職種が違ってもそのまま渡せます。部署別の場面編は、この共通編を見た前提で短く作れます。

教材の範囲は「気づいてつなぐ」までに絞る — 受け手に求めるのは、その場で正しく裁くことではありません。気になる状況に気づけること、そして自分で抱え込まずに相談の道筋に乗せられることです。教材で「これは違反」「これはセーフ」と断定的に線を引こうとすると、微妙な場面ほど当てはめに迷い、かえって何も言わなくなります。判断が難しい場面は「迷ったら相談してよい・相談したことで不利益を受けない」と示すところまでを教材の役割にし、実際の判断と対応は所管部門と定められた手順に委ねてください。

事例は特定されない形に加工し、個人や取引先を責める作りにしない — 実際にあった相談や他社で報じられた出来事をそのまま使うと、当事者が特定されたり、取引先との関係を損ねたりします。業種・場面・立場だけを残して再構成し、原因を個人の資質や特定の取引先の問題に帰さないでください。多くの場合、背景には納期の設定、人員の配置、評価の仕方といった仕組みの側の要因があります。仕組みに目を向ける作りにしておくと、受け手が身構えずに見られます。

ナレーションは目的に合わせて選ぶ — 自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。当面内容を変える予定がなければ録音でも構いません。一方で、方針の改定や体制の変更のたびに一部を直したい場合や、担当が代わっても更新していく前提の場合、日本語が母語でない方が働く職場で多言語版も用意したい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。相談窓口の案内など聞き逃せない部分もあるため、字幕を併せて用意しておくと確実です。

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研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド

人権に関する教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。

研修動画の作り方を読む →

セクション 4

視聴記録をどう残すか

誰がどの教材を見たかを把握しておくと、部署や拠点に行き渡っているか、方針を改定したあとの配り直しが届いたかを確認できます。残し方は大きく 2 つです。

動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)

まず始めるなら

共有フォルダや拠点の端末、貸与端末に動画を置いて視聴してもらい、記録は教育記録簿など、これまで使っている様式に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の帳票の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。取引先や委託先にも見てもらう可能性がある教材は、社外に渡してよい内容かどうかを所管部門と確認したうえで、渡す版を分けて用意しておくと扱いやすくなります。

LMS で受講状況を管理する(SCORM)

証跡を集約するなら

教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。部署や拠点が多く、どこまで行き渡ったかを一覧で確認したい場合に向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。ただし記録に残るのは「見たかどうか」であり、職場の実態がどうなっているかは別に確かめる必要があります。記録の様式や保存期間が社内の定めで決まっている場合は、その基準にあわせて運用を整えてください。

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SCORM 1.2 入門ガイド

受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。

SCORM 1.2 入門ガイドを読む →

セクション 5

つまずきやすいポイント

ビジネスと人権の教育を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。

用語の解説で終わらせない — 国際的な指導原則や用語の説明は、背景として短く触れる程度で十分です。それだけで 1 本が終わると、受け手には「大事な話らしい」以上のものが残りません。作るときは「この本を見た人は、明日の仕事のどの場面で立ち止まれるようになっているか」を 1 行で書いてから中身に入ってください。この 1 行が書けない本は、たいてい方針文の要約になっています。場面から入り、そのあとで原則に戻る順番にすると、同じ内容でも届き方が変わります。

「うちには関係ない」で終わらせない代わりに、脅しで作らない — 自社では起きていないと感じる職場ほど、取引先や委託先、構内で働く他社の方々、外国人材の受け入れといった、目の届きにくい範囲に関わる場面があります。ただし、他社の不祥事や罰則を並べて危機感を煽る作りにすると、受け手は「見つからないようにする」方向に動きます。扱いたいのは、気づける目と、言い出せる道筋です。実際に起きうる場面を具体的に示し、そこで何を確認し誰に伝えるかを添えるほうが、繰り返し見る教材には向きます。

受講率を、取り組みの成果として外部に説明しない — 教材を配信した、受講率が揃った――これらは配ったことの記録であって、職場や取引先の実態が良好であることの証明ではありません。取引先や顧客から取り組み状況を尋ねられたときに、教育の実施状況を取り組みの一部として説明することはあっても、それをもって人権への配慮が十分だと述べるのは避けてください。実態は、相談として上がってくるもの、現場で確かめたこと、取引先とのやりとりから見るものです。教材はその手前の共通理解をつくる役割に置いておくと、扱いを誤りません。

受講者の中に当事者がいる前提で作る — 差別やハラスメント、過重な働き方を経験した人が受講者に含まれている可能性は、常にあります。当時の状況を思い出させるような描写、特定の属性を例に使う言い回し、集合させての一斉視聴の強制は避けてください。各自の都合のよいタイミングで見られる形にしておく、途中で視聴を止められるようにしておく、相談先を教材の最初と最後の両方で案内する――こうした配慮は、この分野の教材では作りの一部です。研修そのものが負担になっては本末転倒です。

相談の道筋が実際に動く状態を先に整える — 教材で「気づいたら相談してください」と案内するのに、窓口が誰なのか分からない、伝えても止まってしまう、伝えたことが本人に不利に働く――こうした状態のまま配信すると、教材は不信を強めるだけになります。相談を受けたあとに誰がどう扱うのか、伝えた人の不利益をどう防ぐのかを所管部門と確認し、案内できる形にしてから配信してください。方針や体制が変わったときに教材だけ古いまま残ると、案内先が実在しない状態になります。更新の担当と契機(方針改定、体制変更、窓口の変更)をあらかじめ決めておくと、更新が止まりません。

セクション 6

よくある質問

動画を見せれば、人権に関する教育として足りますか?
本ガイドでは判断できません。教育の対象・内容・頻度・記録の様式は、業種、規模、取引の構造、取引先や顧客との取り決め、自社の方針によって異なります。実務上は、動画で共通の考え方と自社の方針・相談の道筋を揃え、部門ごとの個別の判断や、取引先の状況の確認、申立てへの対応は所管部門と定められた手順で行う、という組み合わせが取りやすい形です。何をどこまで整えるかは、社内の人権・サステナビリティ・法務・人事の所管部門と経営層にご確認ください。
どこから作ればよいですか?
1 本目は「共通編」に絞ってください。人権が日々の仕事の中にあること、自社だけでなく取引先や委託先で起きていることも関わりうること、自社の方針は何か、気づいたときにどこへ伝えるのか――ここは部署や職種が違ってもそのまま渡せます。次に、関係する場面が多い部署(調達、人事、現場を持つ部門)の場面編を足していくと、実際に効く形になります。すべてを一度に作ろうとすると完成しないまま止まりがちです。
ハラスメント研修やコンプライアンス研修とは、どう使い分けますか?
重なる部分はありますが、置いている焦点が違います。「ハラスメント研修を動画で実施するには」で扱うのは職場の中での言動、「コンプライアンス研修を動画で実施するには」で扱うのは法令や社内規程を守る取り組み全般です。本ガイドが扱うのは、自社の中だけでなく取引先や委託先を含めた範囲で、働く人が受ける影響に目を向ける部分になります。重なる話題は既存の教材を活かし、本ガイド側では「自社の外にも目を向ける」ところに寄せると、それぞれの本を短く保てます。
取引先にも見てもらうことはできますか?
取引先との取り決めしだいです。社内向けに作った教材には、自社の相談窓口や社内の呼び方、内部の事情が含まれていることが多く、そのまま渡すのは向きません。社外に渡す前提の版を別に用意し、内容と渡し方を所管部門と確認してください。あわせて、取引先に対して何をどこまで求めるかは取引の条件に関わる事項です。教材づくりの都合で決めず、調達・法務の所管部門の判断に沿ってください。
外国人材にも届く形にしたいのですが、どうすればよいですか?
この分野の教材こそ、日本語が母語でない方に届く形が要ります。台本から作り直せる方式にしておけば、同じ内容の多言語版を用意しやすくなります。加えて、日本語版でも一文を短くする、専門用語を言い換える、字幕を併せて用意する、といった配慮が有効です。相談先の案内は特に確実に伝わる必要があるため、動画の中だけでなく、掲示や配布物など別の手段でも重ねて示しておくことをおすすめします。
方針や体制が変わったら、教材は毎回作り直しですか?
作り方しだいで、作り直しは避けられます。共通編と自社編、部署ごとの場面編を別の本に分け、本編には個人名や部署名を書き込みすぎず役割と参照先で示しておけば、変わった部分の本だけを差し替えれば済みます。台本から作り直せる形にしておくと、変更箇所だけ直して同じ体裁で出し直せます。あわせて、更新の担当と契機(方針改定、体制変更、窓口の変更)を先に決めておくと、更新が止まりません。

ご紹介

人権に関する教材づくりに使えるツールのご紹介

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