育児・介護休業制度の周知を動画で行うには
制度の説明で終わらせず、必要になった人が申し出先にたどり着ける状態をつくる進め方
育児休業や介護休業の案内は、たいてい社内のどこかに置かれています。規程にも書いてあり、入社時にも触れている。それでも実際に必要になったとき、多くの人はまず検索エンジンを開き、社内の誰に何と切り出せばいいのかが分からないまま数週間を過ごします。とくに介護は、始まる時期を本人も予測できません。ここで足りていないのは制度の説明そのものというより、必要になったその時に、どこへ申し出ればよいかを思い出せる状態が用意されていないこと です。しかも制度は改正が続く領域で、資料を一度作って置いておくと、古い内容のまま案内し続ける状態になりがちです。何を全社に同じ内容で届け、何を自社の手続きとして持ち、何は教材ではなく人事労務の所管部門と専門家の領域として残すのか――その切り分けと、周知したことを記録に残すための進め方を整理します。人事労務・総務で制度の周知を任されている方、部下からの申し出を受ける立場の管理職の方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、実際の場面から作る手順、記録の残し方、そして個別の可否を教材で断定してしまわないための注意点までを実務目線でまとめました。
所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 9 月
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セクション 1
なぜ制度の周知を動画にするのか
この分野の周知は、資料を配って終わりにされやすい一方で、いざ必要になった人にとっては最初のハードルが高い領域です。動画にする組織が増えているのは、次の 3 つの理由によります。
必要になる時期が人によってばらばらで、集合研修の日程と合わない
育児は本人にある程度の見通しがありますが、介護は違います。親の入院や退院、状態の変化をきっかけに、ある日から突然始まります。年に一度の集合研修で説明していても、必要になったのがその翌月であれば内容はほとんど残っていません。動画にしておけば、必要になった時点で本人が見返せる形になり、管理職が申し出を受けたときにも同じものを案内できます。制度の周知は、聞いたことがあるかどうかより、必要なときに手元にあるかどうかで効き方が変わります。
改正が続く領域で、説明のたびに内容がずれていく
育児・介護に関する制度は近年たびたび見直されており、社内の手続きや様式もそれに合わせて変わります。担当者が口頭で説明していると、説明する人と時期によって内容に差が出ますし、古い資料が現場に残ったままになることもあります。台本から作り直せる形で教材を持っておくと、変わった部分だけを直して同じ体裁で出し直せます。改正が前提の領域ほど、作り直しやすさが実際の運用を左右します。
言い出しにくさが、制度を知らないこと以上の壁になっている
制度の存在自体は知っていても、「迷惑をかけるのではないか」「前例がない」と考えて切り出せないまま時間が過ぎ、結果として退職という形になってしまうことがあります。全社に同じ内容を届けておくと、制度は個別の配慮ではなく会社として用意されているものだという前提を共有できます。周囲の人にも同じ内容が届いていることが、当事者にとっては切り出しやすさにつながります。周知の相手を、いま対象になっている人だけに絞らないほうがよい理由がここにあります。
※ 本ガイドは、育児・介護に関する休業制度の社内周知を動画教材として行う方法を整理するものであり、周知の要否や方法を定めるものでも、法令・指針への適合を示すものでもありません。制度の内容、対象となる方の範囲、申し出の期限や手続き、給付や社会保険の取り扱いは、法令の改正や労使協定、就業規則の定めによって異なり、個々の事情によっても結論が変わります。実施すべき内容・時期・記録の様式を含め、社内の人事労務部門および所管の管理職、必要に応じて社会保険労務士など外部の専門家、および所轄の労働局・労働基準監督署にご確認ください。
セクション 2
扱う内容の種類と動画化の相性
「育児・介護休業制度の周知」とひとことで言っても、その中身は、法令にもとづく制度の骨格から、自社で決めた手続きと様式、申し出を受ける側の対応、そして目の前の一人ひとりへの個別の判断まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わります。ここを切り分けておくと、作る本数も、改正があったときの作り直しの範囲も見通しが立ちます。
| 扱う内容 | 自社による違い | 動画化との相性 | 進めるときのポイント |
|---|---|---|---|
| 制度の骨格(どんな休業・休暇の仕組みがあるか、おおまかな考え方、公的な情報の調べ方) | 会社が違っても 共通の部分が多い | 全員に同じ内容を届ける用途に向く | 1 本目はここから。細かい条件を詰め込まず、全体像と調べ方に絞る |
| 自社で決めたこと(申し出の相手と窓口、使う様式、社内の手続きの流れ、独自に設けている制度) | 自社の規程で 決まる | 向くが、制度編と別の本に分けておく必要がある | 自社編として独立させ、規程や様式が変わったらこの本だけ差し替える |
| 申し出を受ける側の対応(話を聞く姿勢、所管部門へのつなぎ方、不利益な取り扱いをしないという前提、業務の引き継ぎの段取り) | 職位・部門で 求められる範囲が違う | 向く。ただし全社向けと分けて管理職向けに配る | 管理職編として別に持つ。判断が要る場面は所管部門に寄せる |
| 個々の事情にもとづく取得可否・期間・給付や社会保険の取り扱い、復帰後の働き方の調整 | その人の状況に よって異なる | 所管部門と専門家が個別に扱うものであり、動画で置き換えるものではない | 動画は「一人で抱えずに窓口にたどり着ける」まで |
※ 何をどこまで教材に載せるかは、業種、雇用形態、自社の規程や労使協定によって異なり、本ガイドでは判断できません。対象となる方の範囲、申し出の期限、給付や社会保険料の取り扱い、期間の延長といった事項は、法令の改正でも変わるうえ個別の事情に左右されるため、教材で結論を示すのではなく、公的機関の案内と社内の窓口につなぐ形にしてください。制度の内容や社内の運用については、人事労務部門および社会保険労務士など所管の専門家にご確認ください。
セクション 3
実務の進め方 — 条文の要約ではなく、実際に迷う場面から作る
この分野の教材でつまずきやすいのは、制度の条件を網羅した解説にしてしまい、聞いている側が「自分が当てはまるのかどうか」を最後まで判断できないまま終わるパターンです。受け手が知りたいのは制度の全体像そのものより、「そういう時期が来たら、まず誰に言えばいいのか」「いつまでに言えばいいのか」「言ったら何が起きるのか」です。手元に就業規則と関連する規程、社内の様式、申し出から復帰までの流れ、これまでに寄せられた問い合わせを揃えたら、次の順で進めると形になります。
過去に寄せられた問い合わせを、そのまま場面の材料にする — 「親の介護が始まりそうだが、まだ何も決まっていない段階で相談していいのか」「休業中に会社とどうやり取りするのか」「復帰の時期はいつまでに決めればよいのか」――人事労務の窓口には、こうした問い合わせが既に届いているはずです。これが教材に載せるべき場面の一次資料になります。想像で作った設例より、実際に寄せられた事柄を扱うほうが受け手に届きますし、同じ問い合わせが減ります。
教材のゴールを「窓口にたどり着けること」に置く — 条件や期限をすべて覚えてもらう必要はありませんし、覚えられません。制度の全体像を短く示したうえで、必要になったら誰に、どの様式で、いつごろまでに切り出せばよいのか――ここが残れば教材としては十分に働きます。細かい条件は改正で変わりますが、「まず所管部門に相談する」という道筋は変わりません。変わりにくい部分を教材に置き、変わりやすい部分は公的機関の案内と社内の窓口に寄せる形が、結果として長持ちします。
制度編・自社編・管理職編に分けてから作り始める — 制度の骨格、自社の手続きと様式、申し出を受ける側の対応は、それぞれ変わる頻度も配る相手も違います。1 本にまとめると、規程が変わっただけで全体を作り直すことになり、管理職向けの内容を全社に配ることにもなります。最初から分けておけば、改正のときに差し替えるのは該当する 1 本で済みます。
個別の可否を断定する表現を避ける — 「この場合は取得できます」と言い切る作りにすると、条件が少しでも違う人が自分の状況に当てはめて誤解します。教材では「こうした場面は相談の対象になります」という示し方にとどめ、可否の判断は所管部門と専門家が個別に行うものだと明示してください。給付や社会保険料の取り扱いについても、率や上限といった数値を教材に書き込むと改正のたびに古くなります。公的機関の案内を参照する形にしておくほうが安全です。
ナレーションは目的に合わせて選ぶ — 自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。当面内容を変える予定がなければ録音でも構いません。一方で、改正や規程の見直しのたびに一部を直したい場合、担当が代わっても更新していく前提の場合、日本語が母語でない従業員にも同じ内容を届けたい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。窓口の名称や様式の名前など聞き逃せない部分もあるため、字幕を併せて用意しておくと確実です。
研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド
制度の周知教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。
研修動画の作り方を読む →セクション 4
視聴記録をどう残すか
誰にどの版が届いたかを把握しておくと、改正で内容を差し替えたあとの配り直しが行き渡ったか、新しく入った方に案内が届いているかを確認できます。残し方は大きく 2 つです。
動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)
まず始めるなら社内ポータルや共有フォルダ、貸与端末に動画を置いて視聴してもらい、記録は教育記録簿や既存の周知記録など、これまで使っている書類に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の帳票の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。改正のある領域なので、配布した版と日付を記録に残しておくと、どの時点の内容がどこまで届いたかを後から確認できます。
LMS で受講状況を管理する(SCORM)
証跡を集約するなら教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。拠点や雇用形態が多く、どこまで行き渡ったかを一覧で確認したい場合や、改正のたびに配り直して差分を追いたい場合に向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。ただし記録に残るのは「見たかどうか」であり、周知として十分かどうかを示すものではありません。記録の様式や保存期間が社内の定めで決まっている場合は、その基準にあわせて運用を整えてください。
SCORM 1.2 入門ガイド
受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。
SCORM 1.2 入門ガイドを読む →セクション 5
つまずきやすいポイント
育児・介護休業制度の周知を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。
いま対象でない人を外さない — 「対象になりそうな人にだけ配る」という運び方は、配る側が誰かの家庭事情を推測して選ぶことになり、それ自体が避けたい形です。介護はとくに、始まる時期を本人も予測できません。全社に同じ内容を配っておけば、当事者だけが特別な案内を受け取る構図にならず、周囲も制度の存在を前提にできます。周知の相手を絞らないことは、配慮としても、行き渡りとしても効きます。
申し出を受ける側の内容を、全社向けに混ぜない — 話の受け止め方、所管部門へのつなぎ方、業務の引き継ぎの段取りは、申し出を受ける立場の人に必要な内容です。全社向けに混ぜると、当事者にとっては自分に関係のない部分が長くなり、管理職にとっては要点が埋もれます。管理職編として分けたうえで、判断が要る場面は所管部門に寄せてください。不利益な取り扱いや職場での言動に関わる論点は、教材で線引きを断定せず、社内の規程と別途の研修に案内する形が安全です。
受講者の事情を聞き出す作りにしない — 理解度の確認として家庭の状況を答えさせる設問を置いたり、視聴後のアンケートで予定を尋ねたりする作りは避けてください。制度を知ってもらうための教材が、知られたくないことを申告させる場になってしまいます。確認するなら、窓口がどこか、いつまでに相談すればよいかといった、制度側の理解にとどめてください。教材に使う場面も、実在の人が特定されない形に加工してください。
古い版が残ったまま案内され続ける状態をつくらない — この領域は改正が続くため、教材と実際の運用が食い違うことが起こります。制度の内容が変わっているのに古い教材を案内し続けると、受け取った人が誤った前提で予定を立ててしまい、周知が無い状態より悪い結果になりかねません。制度編・自社編・管理職編を分けておき、更新の担当者と、見直しの契機(法令や指針の改正、就業規則・様式の改定、窓口や組織の変更)をあらかじめ決めておいてください。配布物の差し替えと、旧版を配布場所から下げる手順もあわせて決めておくと確実です。
動画を配ったことを、周知そのものと同じに扱わない — 教材を用意し、視聴記録を残すことは運用として意味がありますが、それで社内の周知として足りているかは、自社の規程や制度上の要請にもとづいて別に判断される事柄です。本ガイドではその判断はできません。動画は、必要になった人が窓口にたどり着けるようにするための手段のひとつとして位置づけ、面談や個別の案内など既存の手続きを置き換えるものとしないでください。何をどこまで整えるべきかは、人事労務部門と社会保険労務士など所管の専門家にご確認ください。
セクション 6
よくある質問
動画を配れば、制度の周知として足りますか?
制度の条件や期限は、どこまで教材に書けばよいですか?
改正があったとき、作り直しはどのくらいの手間になりますか?
管理職向けには何を伝えるべきですか?
対象者が少ない会社でも作る意味はありますか?
外国人材にも同じ内容を届けたいのですが、どうすればよいですか?
ご紹介
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