OJT トレーナー・新人指導者の研修を動画で実施するには
教える中身ではなく「教え方の型」を各部署に同じ内容で届ける進め方
新人が配属されると、その部署の誰かが指導役として名前を出されます。多くの場合、任された本人は自分の通常業務を抱えたままで、教え方を習った経験もありません。うまくいくかどうかは、たまたま誰が当たったかで決まってしまう――そして育ち方の差が出たときに「あの人の教え方が」という話になる。ここで起きているのは指導役の資質の問題というより、教え方の型が誰とも共有されていないまま、一人ひとりの工夫に任されていること です。しかも配属や中途入社の時期は部署ごとにばらつくため、集合研修を開こうにも全員のタイミングが揃いません。何を全社に同じ内容で届け、何を職場ごとに持ち、何は教材ではなく所管部門と管理職の領域として残すのか――その切り分けと、見たことを記録に残すための進め方を整理します。人材開発・人事で指導役の育成を任されている方、現場で新人の受け入れを回している管理職の方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、実際の場面から作る手順、記録の残し方、そして「育たないのは指導役のせい」に見える教材にしないための注意点までを実務目線でまとめました。
所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 9 月
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セクション 1
なぜ OJT トレーナー研修を動画にするのか
指導役向けの研修は、必要性は誰もが認めるのに後回しになりやすい領域です。対象者が各部署に散っていること、任命の時期が揃わないこと、そして本人が通常業務を抱えたままであることが重なります。動画にする組織が増えているのは、次の 3 つの理由によります。
任命の時期が部署ごとにばらつき、集合研修の日程が合わない
新卒の配属は時期が揃っても、中途入社や異動、パート・アルバイトの受け入れは通年で発生します。指導役に名前が出るのはその都度で、次の集合研修まで数か月空くことも珍しくありません。その間は何も渡さないまま任せることになり、いちばん助けが要る最初の時期に何も届かない状態が生まれます。動画にしておけば、任命が決まったその週に見てもらう形が取れます。教育の効果は、必要になったときに手元にあるかどうかで大きく変わります。
教え方が人によって違い、新人の育ち方に差が出る
先に全体像を見せてから作業に入る人もいれば、いきなり手を動かさせる人もいます。どちらが正しいという話ではありませんが、順番も、どこまでやらせるかも、振り返りをするかどうかも人によって違うと、同じ職場に入った新人の立ち上がりに差が出ます。動画にすると、進め方の共通の型――何を先に見せ、どこまでを本人にやってもらい、どう確かめるか――を全員に同じ内容で渡せます。個々の工夫を否定するのではなく、最低限そろえておく土台を共有する形です。
指導役は毎年入れ替わり、そのたびに同じ説明が要る
指導役は同じ人がずっと続けるものではなく、担当が代わったり、去年教わった側が今年は教える側に回ったりします。そのたびに同じ内容を口頭で伝え直すのは負担が大きく、結局は資料を渡すだけになりがちです。台本から作り直せる形で教材を持っておくと、毎年の入れ替わりに同じ内容で対応でき、進め方を見直したときも変わった部分だけを直して出し直せます。指導役に任される人ほど現場の中心にいて、まとまった時間を取りにくいという事情もあります。
※ 本ガイドは、OJT トレーナー・新人指導者向けの研修を動画教材として実施する方法を整理するものであり、この種の研修の実施が義務づけられていることを示すものでも、法令・指針への適合や、育成体制が十分であることを示すものでもありません。指導役に何をどこまで求めるか、育成計画や記録の様式をどうするか、雇入れ時の教育や職務上必要な資格・教育とどう関係づけるかは、業種、職務の内容、雇用形態、自社の人材育成の方針によって異なります。実施の要否や労務に関わる事項については、社内の人事・人材開発部門および所管の管理職、必要に応じて社会保険労務士など外部の専門家にご確認ください。
セクション 2
扱う内容の種類と動画化の相性
「OJT トレーナー研修」とひとことで言っても、その中身は、職種が違っても通用する教え方の型から、自社で決めた育成の進め方と様式、職場ごとの作業の教え方、そして目の前の新人への個別の対応まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わります。ここを切り分けておくと、作る本数も、見直したときの作り直しの範囲も見通しが立ちます。
| 扱う内容 | 職場による違い | 動画化との相性 | 進めるときのポイント |
|---|---|---|---|
| 教え方の共通の型(作業を分けて示す順番、やって見せる・やってもらう・確かめるの流れ、質問しやすい聞き方、できていない点の伝え方) | 職種が違っても 共通 | 全員に同じ内容を届ける用途に向く | 1 本目はここから。部署や職種が違ってもそのまま渡せる |
| 自社で決めたこと(受け入れ期間の目安、育成計画や OJT シートの様式、報告と相談の相手、困ったときの窓口) | 自社の方針で 決まる | 向くが、共通編と別の本に分けておく必要がある | 自社編として独立させ、様式や運用が変わったらこの本だけ差し替える |
| 職場ごとの教え方(その部署の作業をどの順で覚えてもらうか、どこまで一人でやらせてよいか、確認の勘所) | 部署・現場ごとに 大きく違う | 一部向く。代表的な職場の例を扱うところまで | 部署編として短く分ける。網羅しようとせず典型例に絞る |
| 目の前の新人への個別の対応、評価や処遇に関わる判断、健康や労務上の配慮が要る場面への対応 | その人・その 状況による | 所管部門と管理職が関わって行うものであり、動画で置き換えるものではない | 動画は「迷ったら一人で抱えずに相談先にたどり着ける」まで |
※ 何をどこまで教材に載せるか、指導役にどこまでの役割を求めるかは、業種、職務の内容、雇用形態、自社の人材育成の方針によって異なり、本ガイドでは判断できません。育成期間の設定、評価との関係、記録の様式と保存、労働時間の取り扱いといった事項は、教材で決めるものではなく、人事・人材開発の所管部門と管理職の領域です。社内の所管部門にご確認のうえ、決まっている内容を教材に反映してください。
セクション 3
実務の進め方 — 心構えの話ではなく、指導役が実際に困る場面から作る
この分野の教材でつまずきやすいのは、「相手の立場に立って」「根気強く」といった心構えを並べた作りにしてしまい、任された人が明日から何をすればよいのか分からないまま終わるパターンです。指導役が知りたいのは「よい指導者とは何か」より「初日に何から見せればいいのか」「できていないとき何と言えばいいのか」です。手元に自社の育成計画や OJT シートの様式、受け入れ期間の目安、これまでに指導役から上がってきた相談を揃えたら、次の順で進めると形になります。
過去に指導役から上がってきた相談を、そのまま場面の材料にする — 「何回説明しても同じところで止まる」「質問が来ないので分かっているのか分からない」「自分の作業が回らない」――所管部門や管理職には、こうした相談が既に届いているはずです。これが教材に載せるべき場面の一次資料になります。想像で理想像を描くより、実際に困った事柄を扱うほうが受け手に届きますし、同じ相談が減ります。5 件も並べれば、進め方の型は十分に伝わります。
教える中身ではなく、教える順番と確かめ方を扱う — 作業そのものは職場ごとに違うので、教材で標準化できるものではありません。動画にできるのは、その作業をどう分けて示すか、やって見せてから本人にやってもらうまでの間隔、できたかどうかをどう確かめるか、といった進め方の部分です。ここを共通の型として渡しておけば、扱う作業が何であっても当てはめられます。逆に、特定の職場の作業手順まで教材に入れると、その部署以外では使えない本になります。
「できていない点の伝え方」を型にして示す — 指導役がいちばん迷うのはここです。言い方に迷って何も言えないまま時間が過ぎるか、まとめて強く言ってしまうか、どちらかに寄りがちです。事実として何が違ったのか、次はどうしてほしいのか、という順で短く伝える型を、実際の場面を使って示してください。なお、指導とハラスメントの線引きに関わる判断は教材で断定できる範囲を超えます。所管部門の定めや別途の研修に案内する形にしてください。
1 本目は「共通編」に絞る — 部署別や職種別から作り始めると本数が膨らみ、途中で止まります。まずは、教える順番、やってもらうまでの流れ、確かめ方、伝え方、そして一人で抱えないこと――この共通編だけで 1 本にすると、部署や職種が違ってもそのまま渡せます。自社編(様式・期間・相談先)と部署編は、この共通編を見た前提で短く作れます。
ナレーションは目的に合わせて選ぶ — 自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。当面内容を変える予定がなければ録音でも構いません。一方で、様式や運用の見直しがあるたびに一部を直したい場合や、担当が代わっても更新していく前提の場合、日本語が母語でない方が指導役に入る職場で多言語版も用意したい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。様式の名称や相談先など聞き逃せない部分もあるため、字幕を併せて用意しておくと確実です。
研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド
指導役向けの教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。
研修動画の作り方を読む →セクション 4
視聴記録をどう残すか
誰がどの教材を見たかを把握しておくと、任命された人に案内が行き渡っているか、進め方を見直したあとの配り直しが届いたかを確認できます。残し方は大きく 2 つです。
動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)
まず始めるなら共有フォルダや部署の端末、貸与端末に動画を置いて視聴してもらい、記録は教育記録簿や育成計画の様式など、これまで使っている書類に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の帳票の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。任命の時期がばらつくテーマなので、視聴した日付を記録に残しておくと、任命から視聴までの間が空いていないかを後から確認できます。
LMS で受講状況を管理する(SCORM)
証跡を集約するなら教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。拠点や部署が多く、通年で任命が発生する状況でどこまで行き渡ったかを一覧で確認したい場合や、見直しのたびに配り直して差分を追いたい場合に向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。ただし記録に残るのは「見たかどうか」であり、実際に指導ができる状態になったかは別に確かめる必要があります。記録の様式や保存期間が社内の定めで決まっている場合は、その基準にあわせて運用を整えてください。
SCORM 1.2 入門ガイド
受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。
SCORM 1.2 入門ガイドを読む →セクション 5
つまずきやすいポイント
OJT トレーナー研修を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。
「育たないのは指導役のせい」に見える作りにしない — 新人が定着するかどうかは、指導役の力量だけで決まるものではありません。任される人数、通常業務の量、受け入れ側の準備、配属先の状況が重なります。教材が「教え方が上手ければうまくいく」という前提で作られていると、うまくいかなかったときの負い目だけが指導役に残り、次に任される人が引き受けたがらなくなります。指導役が抱え込まずに済むよう、どこから先は管理職と所管部門の領域なのかを教材の中ではっきり示してください。時間の確保や担当の割り当ては、教材で解決できる話ではありません。
教えるのが上手な人のやり方を、そのまま撮らない — 社内で評判のよい指導者に登場してもらう形は一見よさそうですが、その人の話し方や関係性まで含めて再現できる人はいません。「あの人だからできる」で終わると、受け手は自分には無理だと感じます。取り出すのは属人的な工夫そのものではなく、その人が実際にやっている順番と確かめ方――どこで区切って見せているか、どのタイミングで手を離しているか――です。誰が真似ても同じように進められる形まで落としてから教材にしてください。
指導役の負担を増やす方向に作らない — 教材の中で新しい記録様式や面談の頻度を増やすと、指導役の作業だけが積み上がります。まずは既にある育成計画や OJT シートを使う前提で作り、様式を増やす必要があるかどうかは所管部門の判断に委ねてください。教材づくりのきっかけで運用が重くなると、いちばん忙しい人の時間から先に削られ、結局は形だけになります。指導に使える時間を増やすことのほうが、記録を細かくすることより効きます。
新人向けの教材と混ぜない — 同じ場面を扱うため一本にまとめたくなりますが、指導役向けの教材は「教える側が何をするか」、新人向けの教材は「本人が何を覚えるか」で、受け取る人も使う場面も違います。混ぜると、指導役には自分に関係のない部分が長く、新人には求められていない役割の話が混ざる本になります。共通で使いたい内容がある場合は、同じ素材から 2 本に分けて書き出す形にしてください。職場の作業そのものを残したい場合は、技能伝承の教材として別に持つほうが整理できます。
改訂を前提に、更新の担当と契機を先に決める — 育成計画の様式、受け入れ期間の目安、相談先の窓口は、人事の運用や組織の変更で見直しの対象になります。教材だけが古い版のまま残ると、実際の様式と違うものを案内し続ける状態になり、指導役が混乱します。共通編・自社編・部署編を分けておき、更新の担当者と、見直しの契機(様式や制度の改定、組織や窓口の変更、受け入れ人数の大きな変動)をあらかじめ決めておいてください。台本を残しておけば、変わった箇所だけ直して同じ体裁で出し直せます。
セクション 6
よくある質問
動画を配れば、OJT トレーナーの育成として足りますか?
どこから作ればよいですか?
指導とハラスメントの線引きは、この教材で扱うべきですか?
職場ごとに作業が違うのに、共通の教材に意味はありますか?
指導役を引き受けたがる人がいません。教材で解決できますか?
任命の時期がばらばらです。どう配ればよいですか?
ご紹介
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