HARMONIC insight

INSIGHT HOME DESIGN 技術レポート

世界の建築確認・図面審査の自動化は、どう作られているか

HARMONIC insight(2026年10月の調査にもとづく。各国の状況は調査時点のものです)

建築確認や図面の審査を自動化する取り組みは、シンガポール、韓国、中国、中東、米国、欧州で進んでいます。当社は、住宅会社の設計部向けの図面チェックの道具を作るにあたって、各国の行政の公開資料と研究論文を読み、「どこまでを機械に任せ、どこから人が見ているのか」を調べました。この記事はその要点です。

各国の取り組み

国・地域自動で見ているもの作り方の特徴
シンガポールBIMで提出されたモデル最初に公開されたのはモデルの形式と必須情報の欠けを見るチェック。法規の適合は一部の規定から段階的に広げている
韓国BIMのモデル(国の研究)許認可の法規約530条のうち、数値やデータで表せない基準を除いた約380項目を機械化の対象に選んだ
中国(深圳・湖北・広州・湖南)施工図・BIM自動の審査のあとに人が確認してから是正を通知。機械に任せるのは硬い数値の指標に限る、と定めた省もある
ドバイ・アブダビ戸建(ヴィラ)の申請図面対象を戸建に絞り、申請者が提出前に確かめられる仕組みを用意
米国の市・郡住宅の申請図面申請者向けの事前チェックや、不足している情報の洗い出しから導入
欧州BIM・都市計画の情報情報がそろっているかの確認と、計画との整合が中心。法規の判定は試行の段階

シンガポールの電子申請基盤(CORENET X)では、モデルを確かめる仕組みが「形式」「品質(必須の情報の欠けなど)」「法規の適合」の3つに分かれています。公式の説明によると、法規の適合は必要な情報がある場合に、選んだ規定について判定するもので、天井高などの一部の規定から順に広げているとされています(CORENET X Model Checker)。

韓国では、国の研究費によるKBimの研究で、許認可に関わる法規約530条を整理し、抽象的な基準とデータで表せない基準を除いた約380項目を開発の対象にしたと報告されています。法・施行令・施行規則・告示にまたがる条文を1つの項目に束ね、項目ごとにテスト用のモデルを用意して確かめる手順です。結果はPass/Fail/N/A(該当なし)の3つに分けて示します(The BIM Vol.22(buildingSMART Korea))。

中国では、深圳市が2021年に施工図のAI審査を稼働させました。報道によると、自動の審査が先に問題を挙げ、人が確認してから是正を通知する流れです(人民網 深圳 2021-01-19)。湖北省のBIM審査の技術指針(2023年)は、機械による審査を施工図審査の「刚性指标」(硬い数値の指標)に限り、人の審査と併用するとしています(湖北省住房和城乡建设厅)。広州市は2024年12月の通知で、法律・法規・規章に明記されたものと強制性の標準に関わるもの以外は審査しないと定め、審査の範囲そのものを絞りました(広州市住房和城乡建设局)。湖南省は、図面とモデルが一致しているかを先に確かめ、一致しないものは受け付けない運用です(湖南省住房和城乡建设厅)。

中東では、ドバイ市が2026年8月に、私邸・投資用のヴィラの許可をAIで審査する計画を発表しました。申請者が提出前に設計を確かめられること、図面と書類を照らし合わせることが含まれています(Zawya(ドバイ市の発表))。アブダビの自治体・運輸局は2024年に、2次元のCAD図面から3次元のモデルを起こして判定する仕組みを公表しています(アブダビ政府メディアオフィス)。

米国では、ニューヨーク市建築局の試行(2025年)で、住宅の改修・増築14件を不足情報と法規の50のチェックで事前に審査しています(NYC Buildings Tech Lab)。シアトル市は、小規模な住宅の申請を提出前に自動でチェックする仕組みを試し、同じ申請を市の審査担当者の審査と比べました。市の発表によると、法規の適合のチェックで92%、書類のそろい具合のチェックで87%が一致したとされています(Seattle Innovation Hub 2026-06-17)。住宅用の太陽光発電では、国立研究所が作った仕組みで、標準的な案件は決まった条件で即時に許可し、外れるものだけを人が審査しています(SolarAPP+ 報告書(OSTI))。

欧州では、ドイツの全国調査で、回答した建築当局のうち電子提出に対応していたのは47.3%、BIMでの許可申請に対応していた当局は無かったと報告されています(International Journal of Construction Management 2026)。エストニアなどではBIMを許可申請に添付する試みが始まっています(EDABL視察報告)。

共通しているのは「決定論の規則」と「人の確認」

調べた範囲で、行政の審査の合否を大規模言語モデル(LLM)に出させている例は見つかりませんでした。各国とも、条文を人が読んで規則に書き、計算で判定できるものだけを機械に任せ、最後は人が確認しています。

研究の数字も、この分業を裏づけています。

  • 建築の要件の約53%は、あいまいさを含み、そのままでは自動で判定できないという分析があります(Journal of Management in Engineering 2023)。
  • 条文から判定のプログラムをLLMに書かせた研究では、論理まで正しかったのは24%でした(arXiv 2501.14735)。
  • 大判の技術図面を画像としてAIに読ませた評価では、最も良いモデルでも平均52.65%でした(LED-BENCH, arXiv 2610.19571)。

もう1つの共通点は、「判定できないもの」を「適合」と分けていることです。韓国のN/A、シンガポールの「必要な情報がある場合に」、湖北省の「硬い数値の指標に限る」、広州市の「法令に無いものは審査しない」は、いずれも、機械が判定してよい範囲を先に決めています。

数字が出ているのは「提出前の自己チェック」

効果の数字が公表されているのは、審査する側の自動化よりも、申請者が提出する前に自分で確かめる使い方です。

  • アブダビ:自治体・運輸局の発表によると、住宅ヴィラの許可の再提出が53%減ったとされています(アブダビ自治体・運輸局 2026-03)。
  • ニューヨーク市:試行の報告によると、審査官の時間が25%減ったとされています(NYC Buildings Tech Lab)。

いずれも各機関・各社の発表で、第三者による検証はまだ見当たりません。それでも、「送る前に、足りないものと明らかな不適合を自分で直す」使い方で数字が出ていることは、各国で共通しています。

Insight Home Designの考え方

Insight Home Designは、住宅会社の設計部が外注先から受け取った図面を確かめるための道具です。上の調査で見えた作り方と、同じ考え方をとっています。

  • 法令の判定は、法令の本文を人が読んで書いた規則で行います。指摘ごとに根拠の条・項・号と計算の過程を示します。
  • 図面から読み取れない値や、仮定で補った値がある場合は「要確認」とし、理由を添えます。推定した値で「適合」とはしません。
  • 指摘書と回答用のExcelを作り、外注先からの回答と再提出を同じ案件の中で追いかけられます。
  • 外注先に送る指摘書は、日本語のほか中文・Tiếng Việtでも作れ、日本語との対訳にもできます。画面も中文・Tiếng Việtに切り替えられるので、外注先も同じ製品を使って、送る前に自分でチェックできます。判定の基準は日本の法令のままです。

上に挙げた効果の数字は各国の発表によるもので、当社の製品の効果を示すものではありません。最終の判断は建築士が行います。


出典はすべて2026年10月の調査時点で確認したものです。リンク先の内容は変わることがあります。