従業員アンケート・調査票を翻訳するには
言語が違っても、同じことを聞く
海外拠点や外国人材にも同じ社内アンケートに答えてもらおうと、調査票を訳して配った。集計してみると、ある言語の回答だけが目立って高い、あるいは低い——。人事や管理部門の方からは、「この差は職場の差なのか、訳の差なのか分からない」 という声を聞きます。アンケートの翻訳は、読んで意味が通れば終わりではありません。言語が違っても同じことを同じ強さで聞けていなければ、結果を並べて比べることができないからです。本ガイドでは、訳す前に日本語の設問を整える段階から、回答の選択肢の扱い、毎回の調査で訳を変えない運用、自由記述の回答を訳して読むときの注意までを、専門知識を前提とせずに整理します。
所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 9 月
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セクション 1
なぜアンケートの翻訳は、ふつうの文書より気をつかうのか
調査票は設問の文が短く、1 回の翻訳の分量はそれほど多くありません。それでも後から困ることが多いのは、次の 3 つの事情によるものです。
結果を言語をまたいで比べる — 「意味が通る」だけでは足りない
手順書や案内文は、読んだ人が正しく理解できれば目的を果たします。アンケートはそうではありません。回答を集計し、拠点どうし・言語どうしで並べて比べることが前提です。ある言語の設問が少しだけ強い言い方になっている、別の言語では意味が広く取れる言葉になっている——こうしたずれがあると、回答の差が職場の実態によるものか、訳し方によるものか、あとから区別できなくなります。アンケートの翻訳で守るべきなのは、流暢さよりも「どの言語でも同じことを、同じ強さで聞いている」ことです。
選択肢の言葉にも、訳し方で強弱がつく
「とてもそう思う/そう思う/どちらともいえない/そう思わない/まったくそう思わない」のような段階の選択肢は、設問以上に訳が効く部分です。段階をあらわす言葉の強さは言語ごとに感覚が違い、日本語で「どちらともいえない」とした中間の選択肢が、訳し方によっては「分からない」「関係ない」に近く読まれることもあります。そうなると、その言語だけ中間の回答が増えたり減ったりします。選択肢は設問ごとに訳し直すものではなく、調査全体で一度決めて使い回す「部品」として扱ってください。
毎年・毎回くり返すため、訳の変化がそのまま結果の変化に見える
従業員アンケートの多くは、同じ設問で定期的にくり返し、前回からの変化を見ます。ここで訳が毎回変わると、前回からの変化のうち、どこまでが職場の変化でどこまでが訳の変化なのかが読めなくなります。担当者が替わって訳し直した、前回のファイルが見つからずに一から訳した、という事情でこれは簡単に起きます。一度決めた訳を次回以降も同じように使える状態にしておくことが、アンケート翻訳の半分を占めると考えてください。
※ 本ガイドは、すでに社内で作成した調査票を「言語をまたいで同じ内容で配布・回答できる形にする」工程を扱うものであり、調査の設計(何を聞くか・設問の数や順序・尺度の選び方)、集計や統計的な比較の方法、結果の解釈の妥当性を示すものではありません。また、法令に基づいて実施する調査や、健康・心身の状態にかかわる調査には、実施の方法や結果の取り扱いに定めがあるものがあります。こうした調査を翻訳して配布してよいか、どの様式を使うべきかは、翻訳の工程では判断できません。自社の人事・労務の所管部門、産業保健スタッフ、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。回答に含まれる個人情報の扱いは、自社の個人情報保護の方針に従ってください。
セクション 2
調査票を翻訳する方法 — 比較
調査票の翻訳でよく使われる方法は、大きく 4 つあります。「言語をまたいで比べる」「毎回くり返す」「回答に個人の情報が含まれる」という調査票の性質に照らして、向き不向きを押さえておきます。
| 翻訳の方法 | 手間・スピード | 文書データの扱い | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 翻訳会社や専門家に依頼する | 設問の文面を丁寧に固められるが、言語数と調査の回数に応じて時間と費用が積み上がり、設問を 1 問直すたびに再依頼が要る | 文書は依頼先にとどまる(取り決めによる) | 新しく始める調査の一巡目で、設問と選択肢の訳を一度きちんと決めたい場合 |
| アンケートツールの自動翻訳機能を使う | 設定するだけで多言語で配れるが、どう訳されたかを担当者が確認しないまま配布されやすく、回ごとに訳が変わることがある | 設問や回答がツールの提供元のサーバーで処理される(ツールと契約による) | 比較を目的としない、単発の簡単なアンケート |
| 母語話者の社員に訳してもらう | 伝わる言い回しになりやすいが、本人の負担になり、担当が替わると前回と違う訳になりやすい | 社内にとどまる | 訳文が自然に読めるかを確認する工程(訳す工程そのものを任せきりにしない) |
| 手元(ローカル)で処理する翻訳ツール | 調査票のファイルを渡すだけで速く、表組みや選択肢の配置を保ったまま訳せる。前回の訳を翻訳メモリで引き継げる | 文書は PC の中で処理され、翻訳サービス事業者にはアップロードされない | 定期的にくり返す調査、複数の言語を同じ訳でそろえ続けたい場合 |
※ どれか 1 つに絞る必要はありません。新しい調査の一巡目は時間をかけて訳を決め、以後の回は決めた訳を引き継いで変わった設問だけを確認する、という使い分けが現実的です。どの方法を選んだ場合でも、配布の前に母語話者に一度答えてもらい、「この設問は何を聞いていると思いますか」と確かめることをおすすめします。文として自然でも、意図と違う意味で受け取られていることがあり、これは訳す側では気づけません。また、調査票そのものに社外に出したくない情報(組織名・拠点名・施策名など)が含まれることがあります。社外のサービスに載せてよいかは、自社の情報管理のルールに照らして着手前に確認してください。
セクション 3
実務の進め方 — 訳す前に決めておくこと
調査票は、訳し始めてから直すと全言語ぶんの手戻りになります。着手前に決めておくと以降が速くなる点を、4 つにまとめます。
訳す前に、日本語の設問そのものを直す — 翻訳でずれが出る設問の多くは、日本語の段階であいまいです。「上司や同僚に相談しやすい」のように 1 つの設問で 2 つのことを聞いている、「当社の方針」のように何を指すか人によって受け取り方が違う、否定形の設問に「そう思わない」と答えさせて二重否定になっている——こうした設問は、日本語の回答者も迷っていますが、翻訳するとそのずれが大きくなります。訳す前に、1 問 1 つのことだけを聞く、指しているものを具体的に書く、否定形を避ける、の 3 点で設問を見直してください。日本語版の回答のしやすさも一緒に上がります。
選択肢は「部品」として一度だけ訳し、全設問で使い回す — 段階の選択肢、頻度の選択肢(毎日/週に数回/月に数回…)、はい・いいえ、該当なし、といった選択肢は、設問ごとに訳すと少しずつ言い回しが変わります。調査全体で使う選択肢を先に一覧にし、言語ごとの訳を一度だけ決めて用語辞書に登録してください。段階の数、並び順、数値で表す場合の番号は原本と同じにし、言語によって並びを入れ替えないことも決めておきます。中間の選択肢や「該当しない」がどういう意味かを調査票の冒頭で一文説明しておくと、言語による受け取り方の差が小さくなります。
社内の呼び名・訳さない語を最初に決める — 部署名、拠点名、役職名、社内の制度や施策の名前は、設問のなかで何度も出てきます。これが設問ごとに違う訳になると、回答者には別のものに見えます。一巡目で訳語を決めて用語辞書に登録し、あわせて、設問番号、集計用のコード、期間や日付の表記は「訳さない語」として保護の対象にしてください。とくに設問番号は、あとで言語ごとの回答を突き合わせるときの手がかりになるため、全言語で原本と一致している必要があります。
前回の訳を、次の調査の出発点にする — 原文と訳文の組を翻訳メモリとして残し、次回は「前回から変わった設問だけ」を訳して確認する運用にしてください。前回と同じ設問は、たとえ今見るとより良い訳が思いついても、原則として変えません。訳を変えると前回との比較が崩れるためです。どうしても直す場合は、その設問は比較に使わない、あるいは直したことを結果の読み手に伝える、と決めてから直してください。用語辞書も翻訳メモリも、担当者の手元ではなく所管部門の資産として置いておくことが、担当が替わったあとの比較を守ります。
翻訳の用語を統一して品質を安定させるには
選択肢や部署名の訳が設問ごとにばらつく問題は、言語が増えるほど、調査を重ねるほど効いてきます。用語集(用語辞書)で訳のぶれをなくす考え方と、最初に登録すべき語の選び方をこちらの実務ガイドに整理しています。
翻訳の用語統一ガイドを読む →セクション 4
「配る調査票」と「集まった回答」— 翻訳の向きと扱いを分ける
アンケートの翻訳には、日本語から各言語へ設問を訳す向きと、各言語で書かれた回答を日本語に訳して読む向きの 2 つがあります。同じ翻訳でも、気をつけることがまったく違います。
配る調査票(日本語 → 各言語)
同じ強さで聞く設問・選択肢・回答の説明・調査の目的の案内文を訳します。ここで優先するのは、全言語で同じことを同じ強さで聞けていることと、様式がそろっていることです。表組みや選択肢の配置、設問番号を原本と同じに保ち、どの言語の調査票を並べても同じ位置に同じ設問が来るようにしてください。調査の目的、回答が誰に見られるか、回答は任意かどうかといった案内は、回答者が安心して答えられるかを左右するため、設問と同じくらい丁寧に訳します。案内の内容そのもの(誰が見るか・どう使うか)は、翻訳の前に所管部門で確定させてください。
集まった回答(各言語 → 日本語)
匿名性を守る自由記述欄の回答を、集計や報告のために日本語に訳して読みます。ここで優先するのは、回答者が特定されないことです。記述のなかに本人や他の社員の名前、所属、出来事の日時が書かれていることがあり、そのまま訳して共有すると、匿名のはずの回答から個人が分かってしまいます。訳す前に誰がどこまで読んでよいかを決め、報告に載せるときは固有名詞を伏せる、要旨にまとめる、といった扱いを所管部門で決めてから進めてください。回答という個人の情報を扱う工程なので、翻訳の方法を選ぶときも、データがどこへ送られるかを確認したうえで決めます。
社外秘を含む文書を安全に翻訳するには
アンケートの回答には、社員個人の意見や職場の出来事が書かれています。こうした文書を、クラウド型の翻訳サービスに貼り付けてよいのか——。翻訳でデータがどこへ送られるか、処理場所による違い、手元(ローカル)処理・BYOK の考え方は、こちらの実務ガイドに整理しています。
社内文書の安全な翻訳ガイドを読む →セクション 5
つまずきやすいポイント
従業員アンケート・調査票の翻訳で引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。
少人数の言語は、言語そのものが個人を特定する手がかりになる — ある拠点でその言語を使う社員が数人しかいない場合、「その言語で回答した人」というだけで誰の回答か見当がついてしまいます。回答者が安心して答えられなければ、本音は書かれません。言語別・拠点別の集計をどこまで細かく出すか、少人数の区分をどうまとめるかは、翻訳を始める前に所管部門で決めておいてください。調査票の案内文で「少人数の区分は結果を公表しない」などの扱いを伝えることも、回答のしやすさにつながります。どの粒度で公表してよいかは、自社の方針に従って判断してください。
設問番号・コード・選択肢の並びがずれると、集計でつながらない — 言語ごとに調査票を作ると、ある言語だけ設問が 1 問抜けている、順番が入れ替わっている、選択肢の並びが逆になっている、ということが起きます。集計の段階でそれに気づくと、回答を取り直すことはできません。訳し終えたら、文の読みやすさの確認とは別に、全言語の調査票を並べて設問番号・設問数・選択肢の数と並び順だけを原本と突き合わせる工程を入れてください。
アンケートツールに移すときに、訳が崩れる — 調査票を文書で訳してから回答用のツールに入力し直す場合、転記の段階で設問が入れ替わる、選択肢の一部が日本語のまま残る、改行や箇条書きが崩れる、といった取り違えが起きます。ツールに入れたあとの画面を、言語ごとに一度回答者の立場で最後まで回答してみて確かめてください。スマートフォンで答える人が多い場合は、スマートフォンの画面でも確認します。
訳し直したことを、結果を読む人が知らない — 前回から一部の設問の訳を直した場合、その設問の回答の変化には、訳を直したことの影響が含まれます。これを結果の読み手が知らないと、職場が変わったと受け取られます。訳を直した設問は一覧にして、結果の報告に添えてください。訳を直すかどうかの判断そのものも、調査の担当だけで決めず、結果を使う側と相談してから行うのが安全です。
翻訳で回答率が上がると期待しすぎない — 母語で答えられるようになることは大切ですが、回答が集まらない理由は言葉だけとは限りません。答えても何も変わらないと感じている、回答が誰に見られるか分からない、勤務時間中に答える時間がない——こうした事情は翻訳では解決しません。調査票の翻訳と合わせて、前回の結果をどう受け止め何をしたかを全言語で伝えることが、次の回答につながります。
セクション 6
よくある質問
拠点ごとに言葉の感覚が違うので、それぞれの言語で自然な設問に作り替えてもよいですか?
逆翻訳(訳文を日本語に訳し戻して確認すること)はしたほうがよいですか?
健康やストレスにかかわるアンケートも、同じように翻訳してよいですか?
自由記述の回答を翻訳するとき、何に気をつければよいですか?
何言語まで用意すればよいですか?
研修後アンケートのような小さな調査にも、ここまでの手間が要りますか?
ご紹介
調査票を、手元で・書式そのまま多言語化するツールのご紹介
当社の Insight Doc Translator は、Word・Excel・PowerPoint・PDF をドラッグ&ドロップするだけで、レイアウトや書式を保ったまま多言語に翻訳するデスクトップアプリです。Word や Excel で作った調査票の表組み・選択肢の配置・設問番号を保ったまま訳せるため、どの言語の調査票を並べても同じ位置に同じ設問が来る形で用意できます。用語辞書で選択肢・部署名・制度名の訳語を統一し、設問番号や集計用のコードは「訳さない語」として保護。翻訳メモリを残しておけば、次の回は前回から変わった設問だけを確認すれば済みます。文書は PC の外に出ない手元処理(BYOK)のため、社員の意見が書かれた自由記述の回答を訳して読む場面にも向いています。無料版をご用意していますので、まずは前回の調査票の 1 枚からお試しください(FREE 版のダウンロードはメールアドレスの登録なしでご利用いただけます)。調査の設計や結果の扱い、法令に基づく調査の様式については、訳文だけで決めず、所管部門や専門家のご確認を経てからの判断をおすすめします。
- ✓Word・Excel・PowerPoint・PDF・テキストに対応
- ✓調査票の表組み・選択肢の配置・設問番号を保持したまま翻訳
- ✓用語辞書で選択肢・部署名を統一/設問番号・コードを保護
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