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🌐 実務ガイド

健康診断の案内・問診票を翻訳するには
当日迷わず受けて、正しく書ける

外国人材の方にも健康診断の案内を配った。ところが当日、朝食をとってきてしまった、検査容器を持ってこなかった、問診票の欄が空いたまま——。人事労務や産業保健の担当の方からは、「案内は渡したのに、内容が伝わっていなかった」 という声を聞きます。健康診断の案内は、読んだあとに本人が前日から準備をして、当日ひとりで受付を済ませるための文書です。問診票は、医師が判断するための情報を本人に書いてもらう文書です。どちらも「だいたい分かる」では足りません。本ガイドでは、案内と問診票を分けて考えるところから、誤解が許されない一文の扱い、健康情報を翻訳に回すときの注意、毎年の健診で訳を使い回す運用までを、専門知識を前提とせずに整理します。

所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 9 月

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セクション 1

なぜ健診の案内と問診票の翻訳は、ふつうの社内文書より気をつかうのか

健診の案内は 1 枚か 2 枚、問診票も設問の文は短く、分量はそれほど多くありません。それでも後から困ることが多いのは、次の 3 つの事情によるものです。

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読み違いが、その場で取り返せない — 前日から始まる指示がある

健診の案内には「前日の夜○時以降は食事をとらない」「当日の朝は水以外を口にしない」「いつも飲んでいる薬の扱いは事前に確認する」「採った検体を容器に入れて持参する」のように、前日や当日の朝に本人が自分で守る指示が含まれます。社内の案内文なら、読み違えても後から訂正すれば済みますが、健診は当日になってから気づいても元に戻せません。検査を受け直す、別日を取り直すといった手間が本人にも受け入れる側にもかかります。案内の翻訳で守るべきなのは、きれいな文章よりも「いつ・何を・しない/する」が一読で取り違えなく伝わることです。

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問診票は健診機関の様式 — 社内で自由に作り替えられない

問診票は、多くの場合、健診を実施する医療機関や健診機関が用意した様式です。設問の並びや選択肢は、医師が結果を判断するときの前提になっています。社内で訳しやすいように設問を言い換えたり、欄を減らしたりした「独自の翻訳版」を作ると、健診機関の側で読めない、原本と対応が取れないといった問題が起きます。問診票は原本をそのまま使い、訳は「記入するための手引き」として添える、という扱いが基本になります。健診機関が多言語の問診票を用意している場合もあるため、まずはそこから確認してください。

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書き込まれた瞬間から、扱いに注意が要る情報になる

白紙の案内や問診票は社内文書ですが、本人が記入した問診票や、健診の結果は、本人の健康に関する情報です。健康に関する情報は、個人情報のなかでもとくに慎重な扱いが求められるものとされています。記入済みの問診票を「読めないから」と同僚に訳してもらう、結果の通知を翻訳サービスに貼り付けて読む、といった扱いは、本人の知らないところで健康の情報が広がることにつながります。翻訳を考えるときは、白紙の文書と、書き込まれた文書を、はっきり分けてください。

※ 本ガイドは、すでに実施が決まっている健康診断の案内・受診の手引き・問診票を「外国人材にも同じ内容で伝わる形にする」工程を扱うものです。どの健康診断をいつ・誰に実施すべきか、検査の項目、問診の内容、結果に基づく措置、健康情報の取り扱いの定めについては示しません。事業者が行う健康診断には法令に定めがあり、健康診断の結果などの健康に関する情報は、個人情報のなかでも取り扱いに配慮が求められるものとされています。実施や結果の取り扱い、翻訳版を使ってよいかの判断は、翻訳の工程では決められません。健診を実施する医療機関・健診機関、産業医などの産業保健スタッフ、自社の人事労務の所管部門、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。

セクション 2

健診の案内・問診票を翻訳する方法 — 比較

健診まわりの文書の翻訳でよく使われる方法は、大きく 4 つあります。「当日までの指示を取り違えさせない」「問診票は健診機関の様式」「記入されたら健康情報になる」という性質に照らして、向き不向きを押さえておきます。

翻訳の方法手間・スピード文書データの扱い向いているケース
健診機関の多言語の案内・問診票を使う健診機関が用意していれば、社内で訳す手間がかからず、医師の側もその様式を前提に読める。対応している言語や書類の範囲は健診機関によって違う健診機関との間の取り決めに従う問診票そのもの。まず健診機関に、どの言語・どの書類に対応しているかを確認する
翻訳会社や専門家に依頼する医療の用語を含む文面を丁寧に固められるが、言語数に応じて時間と費用がかかり、日時や会場が変わるたびに再依頼が要る文書は依頼先にとどまる(取り決めによる)毎年使う受診の手引き・記入の手引きの一巡目で、訳を一度きちんと決めたい場合
母語話者の社員に訳してもらう伝わる言い回しになりやすいが、本人の負担になり、担当が替わると前年と違う訳になりやすい社内にとどまる(ただし記入済みの問診票を見せると、同僚に健康の情報が伝わる)白紙の案内が自然に読めるかを確認する工程。記入済みの問診票や結果の翻訳には使わない
手元(ローカル)で処理する翻訳ツール案内や記入の手引きのファイルを渡すだけで速く、表組みや持ち物の一覧の配置を保ったまま訳せる。前年の訳を翻訳メモリで引き継げる文書は PC の中で処理され、翻訳サービス事業者にはアップロードされない毎年くり返す案内、日時や会場だけが変わる文書を複数の言語で用意し続けたい場合

※ どれか 1 つに絞る必要はありません。問診票は健診機関の様式と多言語対応を確認し、社内で作る受診の案内と記入の手引きは一巡目に時間をかけて訳を決め、翌年以降は決めた訳を引き継いで日時や会場だけを差し替える、という使い分けが現実的です。どの方法を選んだ場合でも、配る前に母語話者に一度読んでもらい、「前日と当日の朝に何をしますか」と口で答えてもらうことをおすすめします。文として自然でも、食事や服薬の指示が意図と違って受け取られていることがあり、これは訳す側では気づけません。医療に関する用語の訳が適切かどうかは、健診機関や産業保健スタッフにもご確認ください。

セクション 3

実務の進め方 — 訳す前に決めておくこと

健診の文書は、配ってから直すと当日の混乱につながります。着手前に決めておくと以降が速くなる点を、4 つにまとめます。

訳す前に、日本語の案内そのものを直す — 翻訳で取り違えが起きる案内の多くは、日本語の段階であいまいです。「前日は食事を控えめに」のように何をどこまでか人によって受け取り方が違う、「夕食後は絶食」のように時刻が書かれていない、「いつもの薬はお医者さんの指示に従ってください」のように誰に何を確認するのかが分からない——こうした文は、日本語の受診者も迷っていますが、翻訳するとそのずれが大きくなります。訳す前に、時刻を数字で書く、「しない」ことと「する」ことを分けて書く、確認の相手と方法を具体的に書く、の 3 点で案内を見直してください。指示の中身そのものは、健診機関の案内に合わせて所管部門で確定させてから訳します。

問診票は作り替えず、「記入の手引き」を別に作る — 健診機関の問診票に独自の翻訳版を作る代わりに、原本の設問番号ごとに「この欄には何を書くか」「どう答えるか」を母語で説明した記入の手引きを 1 枚用意します。設問番号・欄の名前・選択肢の記号は原本と一致させ、本人が手引きを見ながら原本に記入できる形にしてください。はい・いいえ、回数、期間といった答え方の選択肢は、手引き全体で一度だけ訳して使い回します。健診機関が多言語の問診票を用意している場合は、その様式をそのまま使い、社内で訳を重ねないでください。

社内の呼び名・訳さない語を最初に決める — 会場名、受付の場所、部署名、担当窓口の名前、社内での健診の呼び名は、案内のなかで何度も出てきます。これが文書ごとに違う訳になると、本人には別のものに見えます。一巡目で訳語を決めて用語辞書に登録し、あわせて、日付・時刻、会場の住所、受付番号、問診票の設問番号、検査の略称のように原本と一致している必要があるものは「訳さない語」として保護の対象にしてください。当日、受付で見せる書類の番号や名前が言語によって違っていると、その場で確認に時間がかかります。

前年の訳を、翌年の出発点にする — 健診は毎年くり返します。原文と訳文の組を翻訳メモリとして残し、翌年は「前年から変わった箇所」——日時、会場、検査の追加や変更、窓口——だけを訳して確認する運用にしてください。変わっていない指示の訳は、原則として変えません。毎年少しずつ言い回しが変わると、前年に受けた人が「今年は何か違うのか」と迷います。用語辞書も翻訳メモリも、担当者の手元ではなく所管部門の資産として置いておくことが、担当が替わったあとの品質を守ります。

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翻訳の用語を統一して品質を安定させるには

会場名や窓口の名前、答え方の選択肢の訳が文書ごとにばらつく問題は、言語が増えるほど、年を重ねるほど効いてきます。用語集(用語辞書)で訳のぶれをなくす考え方と、最初に登録すべき語の選び方をこちらの実務ガイドに整理しています。

翻訳の用語統一ガイドを読む →

セクション 4

「白紙の案内・問診票」と「書き込まれた問診票・結果」— 翻訳の扱いを分ける

健診まわりの翻訳には、会社から本人へ渡す白紙の文書を訳す場面と、本人が書いたもの・本人の結果を読むために訳す場面の 2 つがあります。同じ翻訳でも、気をつけることがまったく違います。

白紙の案内・問診票・記入の手引き(日本語 → 各言語)

取り違えさせない

受診の案内、前日と当日の注意、持ち物、会場の地図、記入の手引きを訳します。ここで優先するのは、前日と当日の指示が取り違えなく伝わることと、原本との対応が取れていることです。表組みや持ち物の一覧、設問番号の配置を原本と同じに保ち、日本語の書類と見比べても同じ位置に同じ内容が来るようにしてください。受診の目的、結果を誰が見るか、結果がどう扱われるかといった説明は、本人が安心して受診し正直に問診票に書けるかを左右するため、指示と同じくらい丁寧に訳します。説明の内容そのもの(誰が見るか・どう使うか)は、翻訳の前に所管部門で確定させてください。

書き込まれた問診票・結果の通知(各言語 ↔ 日本語)

健康情報として扱う

本人が母語で書き込んだ問診票の記述を日本語に直す、あるいは結果の通知を本人の言語で説明する場面です。ここで優先するのは、本人の健康に関する情報が必要な人以外に広がらないことです。同僚に訳を頼む、上司が内容を読む、翻訳サービスに貼り付けるといった扱いは、本人の同意なく健康の情報を渡すことにつながります。誰が読んでよいか、どの方法で訳すかは、健診機関・産業保健スタッフ・所管部門で決めてから進めてください。結果の説明が必要な場合は、医師や保健師などの専門職による説明の場を、通訳を含めてどう用意するかを健診機関と相談するのが基本です。

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社外秘を含む文書を安全に翻訳するには

健診の案内には社員名簿や受診日程が、記入済みの問診票には本人の健康に関する情報が含まれます。こうした文書を、クラウド型の翻訳サービスに貼り付けてよいのか——。翻訳でデータがどこへ送られるか、処理場所による違い、手元(ローカル)処理・BYOK の考え方は、こちらの実務ガイドに整理しています。

社内文書の安全な翻訳ガイドを読む →

セクション 5

つまずきやすいポイント

健康診断の案内・問診票の翻訳で引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。

時刻と「食べない・飲まない」の範囲が、言語によってぼやける — 「前日 21 時以降は絶食」と書いても、水やお茶、ガム、たばこ、いつもの薬がどこまで含まれるかは、言語や文化によって受け取り方が違います。「食事をしない」と訳しただけでは、飲み物は構わないと読まれることもあります。含まれるもの・含まれないものを一覧にして、健診機関の指示どおりに具体的に書いてください。時刻は 24 時間表記か午前・午後の表記かを決めて、全言語でそろえます。

持ち物と検査の準備は、文より絵と一覧のほうが伝わる — 検体の容器、採取の日と方法、保険証などの持ち物、当日の服装といった準備は、長い文で説明するほど読み落とされます。持ち物を一覧にしてチェック欄を付ける、検査の準備は手順ごとに番号を振る、といった形に原本を整えてから訳すと、翻訳後も伝わり方が崩れにくくなります。検体の採取方法など、健診機関が説明書を用意しているものは、それを優先して使ってください。

問診票の「はい・いいえ」が、質問の形によって逆に読まれる — 「〜していませんか」のような否定形の設問や、「〜はありますか(ある場合は○)」のように答え方が設問ごとに違う形式は、訳すと答えが逆になりやすい部分です。問診票の原本は変えられないため、記入の手引きで「この設問は、当てはまる場合に『はい』に○を付けます」のように答え方を設問ごとに明示してください。記入の手引きを作ったら、母語話者に原本と手引きを見比べながら実際に記入してもらい、意図どおりに答えられるかを確かめます。

「受けなくてよい」と誤解される書き方を避ける — 案内に「希望者は」「必要な方は」といった言葉が入っていると、健診そのものが任意だと受け取られることがあります。どの健診・どの検査が対象者全員のもので、どれが希望制なのかを、案内のなかで分けて書いてください。どの健診を誰に実施するかという区分そのものは、所管部門と健診機関で確定させてから訳します。

翻訳すれば受診が進むと期待しすぎない — 母語で案内を読めることは大切ですが、受診が進まない理由は言葉だけとは限りません。勤務時間中に受けてよいのか分からない、結果が職場で知られることが不安、会場までの行き方が分からない——こうした事情は翻訳では解決しません。案内の翻訳と合わせて、受診の扱い、結果を誰が見るか、当日の相談窓口を、全言語で同じように伝えることが受診しやすさにつながります。

セクション 6

よくある質問

問診票を自社で全部翻訳して、翻訳版に記入してもらってもよいですか?
おすすめしません。問診票は多くの場合、健診を実施する機関の様式で、設問の並びや選択肢が医師の判断の前提になっています。社内で作った翻訳版に記入してもらうと、健診機関の側で原本と対応が取れず、読み取りに手間がかかったり、転記の誤りが起きたりします。まず健診機関に多言語の問診票があるかを確認し、ない場合は原本に記入する前提で、設問番号ごとの記入の手引きを母語で用意するのが安全です。翻訳版の使用を検討する場合は、健診機関に事前にご相談ください。
記入済みの問診票が読めないとき、母語が同じ社員に訳してもらってもよいですか?
避けてください。記入済みの問診票には、本人の病歴や服薬、体調といった健康に関する情報が書かれています。同僚に訳を頼むと、本人の知らないところでその情報が職場に伝わります。記入の段階で困らないよう記入の手引きを整えておくことが第一で、それでも読めない記述がある場合の扱いは、健診機関や産業保健スタッフと相談して決めてください。健康に関する情報の取り扱いは、自社の方針と関係する法令に従ってご判断ください。
健診の結果の通知も、同じように翻訳して渡せばよいですか?
本ガイドでは判断できません。結果の通知には、本人の健康に関する情報と、医師の判断が書かれています。翻訳した文面だけを渡すと、所見の意味や、再検査・受診が必要かどうかが正しく伝わらないおそれがあります。結果の説明をどのように行うか、通訳を含めた説明の場をどう用意するかは、健診機関や産業医などの産業保健スタッフとご相談ください。
特殊健康診断や、特定の業務の人向けの健診の案内も、同じ進め方でよいですか?
翻訳の進め方(案内を先に直す、訳さない語を決める、前年の訳を引き継ぐ)は同じように使えます。ただし、どの業務の人にどの健診を行うか、問診や検査の内容は、業務の内容や関係する法令によって決まるもので、翻訳の工程で判断できることではありません。対象者の区分や案内の内容は、所管部門・健診機関・産業保健スタッフで確定させてから訳してください。
何言語まで用意すればよいですか?
実際に在籍している人の母語を数えて決めるのが基本です。そのうえで、健診機関が対応している言語を確認し、問診票は健診機関の様式、案内と記入の手引きは社内で用意する、というように分担を決めます。該当者が少ない言語は、「やさしい日本語」版の案内を用意して複数の言語の人に共通で使ってもらう、という選択肢もあります。ただし前日と当日の指示のように取り違えが許されない部分は、本人が確実に理解できる形になっているかを、実際に読んでもらって確かめてください。
雇い入れのときの書類と一緒に、健診の案内も翻訳したいのですが?
まとめて進めると、会社名・部署名・窓口の名前といった訳語を揃えやすくなります。入社時の案内や手続き書類の翻訳については「入社手続き書類を外国人材向けに翻訳するには」、就業規則や社内規程の翻訳については「就業規則・社内規程を外国人材向けに翻訳するには」のガイドをご参照ください。用語辞書を共通にしておくと、健診の案内と入社書類で同じものが違う名前で出てくる、ということを防げます。

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