求人票・募集要項を翻訳するには
仕事の内容と労働条件を、崩さず母語で届ける
外国人材の採用を始めたものの、求人票は日本語の版しかない。応募者から「残業はありますか」「寮の費用は給料から引かれますか」と同じ質問が何度も届く。面接の場で、求人票に書いたつもりの条件が伝わっていなかったと分かる——。採用の担当者からは、「求人票の条件を、日本語の版と同じ内容のまま応募者の母語で用意したい」 という声を聞きます。求人票や募集要項は、応募者が働くかどうかを決める最初の材料であり、あとで渡す労働条件の書面と食い違ってはいけない文書でもあります。本ガイドでは、求人票を母語の版で用意するときに崩してはいけない点、日本語の版との対応のそろえ方、手当や制度の名前の訳し方、公開する求人票と応募者に個別に渡す書面の分け方までを、専門知識を前提とせずに整理します。
所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 10 月
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セクション 1
なぜ求人票の翻訳は、ほかの社内文書より気をつかうのか
求人票は 1 枚で、書く項目もおおむね決まっています。それでも翻訳したとたんに中身がずれやすいのは、次の 3 つの事情によるものです。
書いた条件が、そのまま応募者との約束の出発点になる
求人票に書いた賃金・労働時間・休日・就業場所・契約期間は、応募者が応募を決める材料であり、採用後に渡す労働条件の書面と照らし合わせて読まれます。日本語の版では「月給」と書いた部分が翻訳で「時給」と読める表現になった、「固定残業代を含む」の一言が訳から落ちた、という小さなずれが、入社後に「聞いていた条件と違う」という食い違いになります。求人票の翻訳で守るべきなのは、外国語として自然な文章であることよりも、条件の数字と、その数字に付いている但し書きが日本語の版どおりに届くことです。
日本の雇用の言葉は、そのままでは伝わらない
「賞与」「みなし残業」「試用期間」「社会保険完備」「寮費」「交通費支給(上限あり)」のような言葉は、日本の雇用の慣行を前提にしています。直訳すると意味が通らなかったり、母国の制度の似た言葉に置き換わって、違う中身として読まれたりします。手当や制度の名前は、訳語を 1 つに決めたうえで「何が・どういう条件で・いくら(またはどう決まるか)」を短く書き添える形にしないと、応募者は判断できません。
募集のたびに書き換わり、版が増える
求人票は、募集の時期や拠点、職種ごとに少しずつ書き換えて使います。日本語の版だけを直して翻訳版を直し忘れると、古い条件の翻訳版が求人媒体や紹介会社の手元に残ります。言語が増えるほど、同じ求人の版が言語の数だけ増え、どれが今の条件なのかが分かりにくくなります。翻訳を 1 回の作業ではなく、日本語の版を変えるたびに続く運用として最初から組み立てておくことが大切です。
※ 本ガイドは、求人票・募集要項を「外国人材の応募者が母語で読める形にする」工程を扱うものです。求人の際に明示しなければならない労働条件の項目、在留資格ごとに従事できる業務の範囲、登録支援機関や職業紹介事業者を通す場合の手続き、雇用契約や労働条件通知書の作り方そのものについては示しません。求人の際の労働条件の明示は職業安定法にもとづくルールがあり、2024 年 4 月からは明示する事項に、従事する業務や就業場所の変更の範囲などが加わっています。どの項目をどう書くべきかは、翻訳の工程では決められません。厚生労働省・ハローワークの案内や出入国在留管理庁の情報を確認のうえ、必要に応じて社会保険労務士・行政書士などの専門家にご相談ください。
セクション 2
求人票・募集要項を翻訳する方法 — 比較
求人票まわりの翻訳でよく使われる方法は、大きく 4 つあります。「条件の数字と但し書きを崩せない」「日本の雇用の言葉に説明が要る」「募集のたびに版が増える」という性質に照らして、向き不向きを押さえておきます。
| 翻訳の方法 | 手間・スピード | 文書データの扱い | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 求人票のひな形を、先に両言語にしておく | 最初に一度、項目の名前・手当や制度の説明・よくある但し書きを対訳にする手間がかかるが、その後は募集ごとに変わる数字や職種の説明だけを差し替えればよくなる | ひな形と説明文だけを扱うため、毎回の募集の細かな事情は外に出ない | 職種や拠点は違っても、同じ会社の同じ書式で何度も募集する場合。言語を増やす前に、まず 1 言語で形を固めたい場合 |
| 翻訳会社や専門家に依頼する | ひな形や会社紹介の文章を丁寧に固められるが、募集のたびに依頼していると、条件を変えてから翻訳版がそろうまでに時間がかかる | 文書は依頼先にとどまる(取り決めによる)。公開前の募集計画や賃金の条件を渡す場合は、機密保持の取り決めを確認する | ひな形・手当の説明・会社紹介を最初に作る一巡目や、自社に読める人がいない言語の版を用意する場合 |
| 両方の言語ができる社員に訳してもらう | 現場の仕事の中身を踏まえて訳せて、応募者にどう読まれるかの感覚も持っているが、採用の時期に負担が集中しやすい | 社内にとどまる | 仕事の内容の説明が母語で自然に読めるかの確認や、応募者からよく来る質問を求人票に先回りして書き足す作業 |
| 手元(ローカル)で処理する翻訳ツール | 求人票のファイルを渡すだけで速く、表の配置や項目の並びを保ったまま訳せる。用語辞書で手当や制度の名前を固定し、翻訳メモリでひな形の定型部分を引き継げる | 文書は PC の中で処理され、翻訳サービス事業者にはアップロードされない | ひな形の対訳を作る作業や、職種・拠点ごとの求人票を何本も用意する場合、公開前の条件を含む下書きを訳す場合 |
※ どれか 1 つに絞る必要はありません。まずひな形と手当・制度の説明を両言語にして形を固め、募集ごとの差し替えを手元の翻訳ツールで行い、仕事の内容の説明は両方の言語ができる社員に読んでもらう、という順番が現実的です。どの方法を選んだ場合でも、賃金・労働時間・休日・就業場所・契約期間の数字と但し書きは、公開の前に日本語の版と 1 項目ずつ突き合わせてください。訳文が自然に読めても、条件が同じかどうかは並べてみないと分かりません。
セクション 3
実務の進め方 — 訳す前に決めておくこと
求人票の翻訳は、募集をかけるたびに続く運用です。応募が集まり始めてから決めようとすると、古い版の訂正に追われます。着手前に決めておくと以降が楽になる点を、4 つにまとめます。
日本語の版を正本とし、翻訳版にそのことを書いておく — 翻訳版は応募者の理解を助けるためのもので、条件を定める版は日本語の版、という扱いにしておくと、食い違いが見つかったときに立ち返る先がはっきりします。翻訳版の末尾に「条件の内容は日本語の版によります。分からない点はお問い合わせください」といった一文を母語で添え、問い合わせ先を書いておいてください。正本の扱いや書き方に決まりが必要かどうかは、採用の所管部門や専門家に確認してください。
条件の欄は「数字」「単位」「但し書き」に分けて書く — 「月給 22 万円〜(固定残業代 20 時間分を含む・超過分は別途支給)」のように 1 行に詰め込んだ条件は、翻訳でいちばん崩れやすい箇所です。金額や時間の数字、月給・日給・時給といった単位、含まれるもの・含まれないもの・条件付きのものを、行や欄を分けて書いてから訳してください。日本語の版の読みやすさも上がり、応募者からの同じ質問も減らせます。
手当・制度・職種の名前を、用語辞書にまとめる — 「皆勤手当」「夜勤手当」「寮費」「社会保険」「試用期間」「正社員」「契約社員」のような言葉は、訳語を 1 つに決め、短い説明と一緒に用語辞書に登録してください。社名や拠点名、製品名は「訳さない語」として保護します。入社後に渡す書類や就業規則の翻訳と同じ用語辞書を使うと、求人票で読んだ言葉と、入社後に目にする言葉がそろいます。
日本語の版を変えたら、翻訳版もそろえて差し替える流れを決める — 条件を変えたときに、どの言語の版を誰が直し、いつまでに求人媒体や紹介会社の手元の版を差し替えるかを決めておきます。ファイル名や版の番号に日付を入れ、日本語の版と翻訳版で同じ番号を使うと、どの翻訳版がどの日本語の版に対応しているかが一目で分かります。古い版を回収できない場所に出した場合は、その旨を記録に残しておいてください。
翻訳の用語を統一して品質を安定させるには
手当や制度の名前、職種の呼び方が求人ごとにばらつくと、応募者は同じ会社の求人なのに条件が違うのかと迷います。用語集(用語辞書)で訳のぶれをなくす考え方と、最初に登録すべき語の選び方をこちらの実務ガイドに整理しています。
翻訳の用語統一ガイドを読む →セクション 4
「広く公開する求人票」と「応募者に個別に渡す書面」— 扱いを分ける
採用の流れで翻訳が必要になる文書には、不特定の応募者に向けて公開する求人票・募集要項と、選考が進んだ応募者 1 人に渡す書面の 2 種類があります。どちらも条件を書いた文書ですが、気をつけることが違います。
広く公開する求人票・募集要項
誤解されない書き方を先に求人媒体や自社の採用ページ、紹介会社を通じて、まだ会ったことのない応募者に読まれる文書です。ここで優先するのは、条件の数字と但し書きを崩さないことに加えて、日本の雇用の言葉に説明を添え、読み違えられない書き方にしておくことです。公開した版は手元から回収できないため、条件を変えたときの差し替えの流れを先に決めておきます。誇張した表現や、確定していない条件を書かないことも、日本語の版と同じく大切です。
応募者 1 人に渡す書面(内定の通知・労働条件の書面など)
求人票と食い違わせない選考が進んだ応募者に、その人の条件を書いて渡す書面です。ここでは、公開していた求人票と食い違いがないか、食い違うならその理由を本人に説明したかが問われます。個人の名前や個別の賃金が入るため、どの翻訳の方法を使ってよいかは個人情報の取り扱いの方針に沿って決めてください。入社手続きで渡す書類の翻訳については、別の実務ガイドで詳しく扱っています。
入社手続き書類を外国人材向けに翻訳するには
内定のあとに渡す雇用契約書・労働条件の書面・入社案内・届出の様式は、求人票とは性格が違い、読んでもらう書類と記入してもらう書類に分けて用意する必要があります。入社日に間に合わせるための進め方は、こちらの実務ガイドに整理しています。
入社手続き書類の翻訳ガイドを読む →セクション 5
つまずきやすいポイント
求人票・募集要項の翻訳で引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。
金額・時間・日付の書き方を、母語の習慣に合わせて確かめる — 「22 万円」「8:30〜17:30(休憩 60 分)」「年間休日 105 日」のような書き方は、言語によって数字の区切りや時刻の書き方、「万」の扱いが違います。訳の過程で桁がずれたり、休憩を含むか含まないかが読み取れなくなったりすると、条件そのものが変わって見えます。数字の欄は、日本語の版と並べて 1 項目ずつ突き合わせてから公開してください。
「など」「原則」「応相談」を訳で落とさない — 「勤務地:本社工場(原則)」「休日:土日など」「経験に応じて応相談」のような言葉は、条件に幅があることを示しています。翻訳で落ちると、幅のない条件として読まれます。逆に、幅のない条件に訳で「など」が付くこともあります。但し書きの言葉は、ひな形の段階で訳し方を決めて、用語辞書に入れておくと崩れにくくなります。
仕事の内容を、日本の職場の言葉だけで書かない — 「ライン作業」「段取り」「多能工」「現場管理補助」のような言葉は、日本語の版でも分かりにくいことがあります。翻訳する前に、「何を・どこで・どんな道具を使って・1 日のどのくらいの時間」行う仕事かを日本語の版に書き足してください。仕事の内容がはっきりしていない求人票は、どれだけ丁寧に訳しても、応募者が判断できる材料になりません。
写真や図の中の文字を、訳し忘れない — 求人票に載せた職場の写真の説明、勤務地の地図、シフトの図の中の文字は、本文だけを訳す方法では残りがちです。図の中の文字は訳を注記として添えるか、図を両言語の版で用意してください。図の中にだけ書いてある条件がないかも、あわせて確かめます。
応募者への返信や面接の案内は、求人票とは別に考える — 求人票を母語にすると、応募者から母語で問い合わせが届くようになります。誰がどの言語で返信するか、面接にどの言語でのやり取りを用意するかを決めないまま求人票だけを母語にすると、応募のあとの段階で止まります。翻訳版を公開する前に、問い合わせから面接までの流れを決めておいてください。
セクション 6
よくある質問
求人票の翻訳版は、日本語の版と同じ内容でなければいけませんか?
求人票を、無料のウェブ翻訳サービスで訳してもよいですか?
どの言語の版を用意すればよいですか?
在留資格の要件や、求人に書かなければならない項目も教えてもらえますか?
紹介会社や登録支援機関が翻訳した求人票を、そのまま使ってよいですか?
就業規則や入社手続き書類の翻訳と、何が違いますか?
ご紹介
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