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🌐 実務ガイド

製品仕様書・図面の注記を翻訳するには
数値と記号を崩さず、海外でも同じ製品を作れる版を

海外の製造拠点で量産を始める、海外の協力工場に部品を発注する、取引先から仕様書の英語版を求められる——。そのたびに、日本語で書かれた製品仕様書と図面の注記を誰かが訳し、改訂が入るたびに訳し直すことになります。設計や技術の担当者からは、「仕様書と図面の注記を、日本語の版と同じ要求のまま相手の言語で渡したい」 という声を聞きます。製品仕様書は、書かれていることがそのまま「何をどう作り、どう確かめるか」の指示になる文書です。言い回しが自然かどうかより、数値と記号と要求の強さが原文どおりに届くかどうかで品質が決まります。本ガイドでは、訳す語と訳さない語の切り分け、仕様書の本文と図面の注記の扱いの違い、部品名や工程名の訳語のそろえ方、改訂のたびに翻訳版を古いまま残さない運用までを、専門知識を前提とせずに整理します。

所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 10 月

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セクション 1

なぜ製品仕様書の翻訳は、一般の社内資料より気をつかうのか

製品仕様書は、文章の量で見れば多くない文書です。それでも翻訳で問題が起きやすいのは、次の 3 つの事情によるものです。

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文章と数値と記号が、同じ行に並んでいる

「外径 φ20 h7、材質 SUS304、表面粗さ Ra 1.6 以下、端部は C0.5 面取りのこと」のように、製品仕様書や図面の注記では、意味を訳すべき文章と、原文と一致させるべき数値・記号が 1 行の中に同居しています。文章を自然な外国語に整えている間に、公差の記号が抜けたり、「以下」が「未満」に変わったり、小数点の位置が変わったりすると、相手は日本語の版と違うものを作ります。訳す対象と訳さない対象を、着手前に分けておく必要があります。

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「のこと」「が望ましい」の違いが、そのまま合否の違いになる

仕様書の文末は、守らなければ不合格になる要求(〜のこと・〜とする)と、できればそうしてほしい推奨(〜が望ましい・〜を推奨する)、参考として示すだけの情報(参考値・〜程度)を書き分けています。翻訳でこの区別が崩れると、必須の要求が推奨として読まれたり、参考値が検査の基準として扱われたりします。英語であれば shall/should/may のように、要求の強さを表す言い方を最初に決めて、すべての版で同じ使い方をそろえることが大切です。

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設計変更のたびに改訂され、版が言語の数だけ増える

製品仕様書と図面は、量産が始まってからも設計変更で何度も改訂されます。日本語の版だけを直して翻訳版を直し忘れると、海外の拠点や協力工場では古い改訂の内容で作り続けることになります。言語が増えるほど、同じ図番の版が言語の数だけ増え、どれが今の改訂なのかが分かりにくくなります。翻訳を 1 回の作業ではなく、改訂のたびに続く運用として組み立てておくことが欠かせません。

※ 本ガイドは、製品仕様書と図面の注記を「海外の拠点や取引先が読める形にする」工程を扱うものです。仕様の内容そのものの妥当性、図面の描き方や幾何公差の表し方の規格、品質保証の取り決め、海外への技術情報の提供にかかわる手続きについては示しません。製品の技術情報を海外の拠点や取引先に渡すことは、外国為替及び外国貿易法(外為法)の安全保障貿易管理の対象になる場合があります。該当するかどうかの判断は翻訳の工程では決められません。経済産業省の安全保障貿易管理の案内や、自社の輸出管理の担当部門にご確認ください。

セクション 2

製品仕様書・図面の注記を翻訳する方法 — 比較

製品仕様書まわりの翻訳でよく使われる方法は、大きく 4 つあります。「数値と記号を原文どおりに残す」「要求の強さを崩さない」「改訂が続く」という性質に照らして、向き不向きを押さえておきます。

翻訳の方法手間・スピード文書データの扱い向いているケース
翻訳会社や技術翻訳の専門家に依頼する分野の用語に慣れた訳者に任せられるが、改訂のたびに依頼していると、設計変更から翻訳版がそろうまでに日数がかかる文書は依頼先にとどまる(取り決めによる)。量産前の製品の仕様や図面を渡すため、機密保持の取り決めを事前に確認する新製品の最初の仕様書や、取引先との契約に添付する版など、一度しっかり固めておきたい文書
海外拠点や取引先の技術者に訳してもらう現物と工程を知っている人が訳すため、現場で通じる言葉になりやすいが、訳した内容を日本側が確かめにくい相手の社内に渡る。どこまでの情報を渡してよいかを、渡す前に社内で決めておく現地の作業者が読む作業指示や、現地の言い方に合わせたい工程名の確認
両方の言語ができる設計者・技術者が訳す仕様の意図を踏まえて訳せるが、本来の設計業務と重なり、改訂が続く時期に負担が集中しやすい社内にとどまる要求の強さや検査の条件が正しく伝わっているかの最終確認や、注記の意図の補足
手元(ローカル)で処理する翻訳ツールWord・Excel・PDF のファイルを渡すだけで速く、表の配置や条項番号を保ったまま訳せる。用語辞書で部品名や工程名を固定し、翻訳メモリで改訂前の訳を引き継げる文書は PC の中で処理され、翻訳サービス事業者にはアップロードされない改訂のたびに出る差分の翻訳や、図面の注記を一覧にした表の翻訳、量産前の機密性の高い仕様書の下訳

※ どれか 1 つに絞る必要はありません。最初の版は専門家や社内の技術者と一緒に固めて用語辞書を作り、改訂ごとの差分は手元の翻訳ツールで訳し、要求の強さと検査の条件は設計部門が最終確認する、という分担が現実的です。どの方法を選んだ場合でも、寸法・公差・材質・規格番号・図番・改訂記号は、相手に渡す前に日本語の版と突き合わせてください。訳文が自然に読めても、数値と記号が同じかどうかは並べてみないと分かりません。

セクション 3

実務の進め方 — 訳す前に決めておくこと

製品仕様書の翻訳は、量産が続くかぎり改訂とともに続く運用です。改訂が重なってから決めようとすると、古い翻訳版の回収に追われます。着手前に決めておくと以降が楽になる点を、4 つにまとめます。

「訳す語」「訳さない語」「毎回同じ訳にする語」を先に仕分ける — 本文の説明・要求の文・検査や梱包の条件は訳す対象です。一方、寸法、公差、表面粗さ、材質記号、表面処理や熱処理の記号、規格の名称と番号、図番、品番、改訂記号、単位は、原文のまま残す対象です。そして、部品名・工程名・検査項目の名前・社内で決めた呼び方は「毎回同じ訳語にする語」です。後の 2 つを用語辞書に登録してから訳すと、担当者や改訂が変わっても訳がぶれません。

要求の強さの言い方を、対訳表にして固定する — 「〜のこと」「〜とする」「〜が望ましい」「参考」「〜程度」「〜以上」「〜以下」「〜未満」「〜を超える」を、相手の言語でどう書くかを最初に 1 枚の対訳表にしてください。とくに「以下」と「未満」、「以上」と「超える」は、境界の値を含むかどうかが違います。この対訳表を用語辞書に入れておくと、改訂のたびに言い方がぶれるのを防げます。

日本語の版を正本とし、翻訳版に改訂記号をそろえて書く — 翻訳版は相手の理解を助けるためのもので、要求を定める版は日本語の版、という扱いを決めておくと、食い違いが見つかったときに立ち返る先がはっきりします。翻訳版の表紙や図枠に、日本語の版と同じ図番・改訂記号・改訂日を書き、「内容は日本語の版によります」といった一文を相手の言語で添えてください。どちらを正とするかを契約で決める場合は、取引先との取り決めに従います。

改訂のときは、変わったところだけを訳して差し替える流れを決める — 改訂の履歴欄に書いた変更点を手がかりに、変わった箇所だけを訳し直し、翻訳版の改訂記号を日本語の版にそろえます。誰が訳し、誰が確かめ、いつまでに海外の拠点や協力工場の手元の版を差し替えるかを決めておきます。古い改訂の翻訳版が手元に残らないよう、配った先の一覧も残しておいてください。

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翻訳の用語を統一して品質を安定させるには

部品名や工程名、検査項目の訳が文書ごとにばらつくと、相手は同じものを指しているのか分からなくなります。用語集(用語辞書)で訳のぶれをなくす考え方と、最初に登録すべき語の選び方をこちらの実務ガイドに整理しています。

翻訳の用語統一ガイドを読む →

セクション 4

「仕様書の本文」と「図面の注記」— 扱いを分ける

製品の技術情報には、Word や Excel で書かれた仕様書の本文と、図面の上に書かれた注記の 2 つがあります。どちらも同じ製品の要求ですが、ファイルの形が違うため、翻訳の進め方を分けて考えます。

仕様書の本文(Word・Excel・PDF)

元ファイルごと訳す

仕様書の本文は、条項番号・表・箇条書きの階層・図表番号が本文と結びついています。本文だけをコピーして訳すと、この対応が崩れて組み直しに時間がかかります。ファイルの書式を保ったまま翻訳できる方法を選ぶと、日本語の版と同じ体裁の翻訳版を出せて、条項ごとに並べて突き合わせやすくなります。表の中の数値や記号が訳で書き換わっていないかは、条項番号を手がかりに 1 行ずつ確かめてください。

図面の注記(CAD データ・図面の PDF)

注記を一覧にして訳す

図面そのもの(CAD データ)や、画像として出力された図面の中の文字は、文書の翻訳ツールでは扱えないことが多くあります。図面の注記は、CAD 側で文字として持っている注記を一覧(Excel など)に書き出し、その一覧を訳してから、CAD 側で差し替えるか、翻訳した注記の一覧を図面に添付する形が扱いやすいでしょう。一般注記・部分注記・表題欄・部品表のどこまでを訳すかも、最初に決めておきます。寸法や公差、溶接や表面処理の記号は図面の上で原文のまま残します。

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検査成績書・品質記録を翻訳するには

仕様書で決めた要求は、出荷のときに検査成績書や品質記録で確かめられます。仕様書と検査成績書で検査項目や単位の訳がそろっていないと、海外の顧客や監査で照らし合わせにくくなります。数値と判定を原文どおりに保つ進め方は、こちらの実務ガイドに整理しています。

検査成績書の翻訳ガイドを読む →

セクション 5

つまずきやすいポイント

製品仕様書と図面の注記の翻訳で引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。

小数点と桁の区切りを、相手の国の書き方と取り違えない — 国や地域によって、小数点にカンマを使い、桁の区切りにピリオドを使うことがあります。「1.500」が「1 と 2 分の 1」なのか「千五百」なのかが読み手によって変わると、寸法そのものが変わります。翻訳版で数値の書き方をどちらにそろえるかを最初に決め、仕様書の冒頭に明記しておいてください。

社内だけで通じる呼び方を、そのまま訳さない — 「ツバ」「バリ」「段取り」「〇〇工程」のような社内や業界の呼び方は、直訳すると意味が通りません。訳す前に、日本語の版で「何の・どの部分を・どうする」ことかを書き足すか、用語辞書に説明つきで登録してください。現地の技術者が実際に使っている言い方があれば、その言い方を用語辞書に入れておくと現場で通じやすくなります。

「別途協議」「図面による」「同等品可」を訳で落とさない — こうした言葉は、仕様書の中で決めきれていない部分や、判断を別の文書に預けている部分を示しています。訳で落ちると、決まった要求として読まれます。逆に、どの文書を見ればよいのか(図番や規格番号)が訳文から読み取れるかも確かめてください。

単位を勝手に換算しない — 相手の国でなじみのある単位に換算した値を書き添えるのは親切に見えますが、換算で丸めた値が検査の基準として使われるおそれがあります。単位は原文のまま残し、換算値を添える場合は「参考」と明記するか、換算するかどうかを相手との取り決めで決めてください。

図や写真の中の文字を、訳し忘れない — 仕様書に貼り込んだ外観の写真への書き込み、梱包や表示の見本、組立の図の中の文字は、本文だけを訳す方法では残りがちです。図の中の文字は訳を注記として添えるか、図を両言語の版で用意してください。図の中にだけ書いてある要求がないかも、あわせて確かめます。

セクション 6

よくある質問

図面そのものは翻訳しなくてもよいのですか?
図面の寸法や公差、溶接・表面処理の記号は、国際的に使われる表し方であれば訳さなくても読めることが多く、むしろ原文のまま残すべきものです。一方で、一般注記・部分注記・表題欄の品名などの文章は、相手が読めなければ要求として伝わりません。どこまでを訳すかは、相手の技術者が読める言語と、取引先との取り決めをもとに決めてください。訳さない部分を決めたら、その範囲を翻訳版の冒頭に書いておくと、相手が迷わずに済みます。
製品仕様書を、無料のウェブ翻訳サービスで訳してもよいですか?
量産前の製品の仕様や、取引先と秘密保持の取り決めを結んでいる情報を含む場合は、自社の情報の取り扱いの方針や、取引先との取り決めをご確認ください。外部のサービスに文書を送ることが、取り決めの範囲を超える場合があります。どの方法で訳した場合でも、数値と記号と要求の強さは日本語の版と突き合わせることをおすすめします。
英語の版を作っておけば、ほかの国の拠点にもそれで足りますか?
技術者どうしのやり取りでは英語の版で足りることも多くあります。ただし、現地の作業者が読む作業指示や検査の手順は、現地の言語で用意したほうが読み違いを防げます。英語の版を経由してほかの言語に訳すと、ずれが 2 回重なるおそれがあるため、用語辞書と要求の強さの対訳表は言語ごとに用意し、日本語の版と直接突き合わせられる形にしておいてください。
海外の拠点に技術情報を渡すときに、手続きは必要ですか?
本ガイドでは扱っていません。製品の設計や製造にかかわる技術情報を海外の拠点や取引先に渡すことは、外為法の安全保障貿易管理の対象になる場合があります。該当するかどうか、どのような手続きが必要かは、翻訳の工程では決められません。経済産業省の安全保障貿易管理の案内をご確認のうえ、自社の輸出管理の担当部門にご相談ください。
取扱説明書や保守マニュアルの翻訳と、何が違いますか?
取扱説明書は製品を使う人に、保守マニュアルは点検や修理をする技術者に向けた文書です。製品仕様書と図面の注記は、製品を作る側と確かめる側に向けた文書で、書かれた要求がそのまま合否の基準になります。そのため、要求の強さの書き分けと、数値・記号を原文どおりに残すことがいちばん大切になります。部品名や型式は 3 つで同じ訳語を使うよう、用語辞書を共通にしておくことをおすすめします。あわせて「取扱説明書を書式を保ったまま翻訳するには」「保守・サービスマニュアルを翻訳するには」のガイドもご参照ください。
建設の工事仕様書・設計図書の翻訳とは別のものですか?
考え方は共通していますが、扱う文書が違います。工事仕様書・設計図書は建物や工作物を施工するための文書で、工種名や通り芯の符号などを扱います。本ガイドは、工場で量産する製品や部品の仕様書と図面を扱います。建設の文書については「工事仕様書・設計図書を翻訳するには」のガイドをご参照ください。

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