HARMONIC insight
🧭 実務ガイド

インサイダー取引防止の研修を動画で実施するには
未公表の情報の扱いと、自社株を売買する前の社内手続きを、役職員に同じ内容で届ける進め方

インサイダー取引の防止は、多くの会社で「入社時に規程を配って、署名をもらう」ところで止まりがちな領域です。規程には難しい言葉が並び、読んだ人も「自分には関係のない、経営陣や IR の話」と受け止めやすくなります。ところが実際に迷うのは、決算の数字を集計している経理の担当者、取引先との提携の打ち合わせに同席した営業、新製品の開発状況を知る技術者、そして従業員持株会や株式報酬で自社株を持つ社員一人ひとりです。「この話は家族にしてよいのか」「今月、自社株を売っても大丈夫か」「取引先の株を持っているが、どうすればよいか」――その答えを、業務で知った未公表の情報は売買にも人への伝達にも使わないという共通の考え方と、売買の前に踏む社内の手続き・相談先を、役職員の全員に同じ内容で届けて記録に残す ための進め方を整理します。法務・総務・IR の教育担当者の方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、社内の実際の質問から作る手順、構成時の注意点、視聴記録の残し方までを実務目線でまとめました。

所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 10 月

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セクション 1

なぜインサイダー取引防止の研修を動画にするのか

インサイダー取引の防止は、規程を配るだけでは「自分の仕事のどこに関係するのか」が伝わりにくい領域です。動画にしておくと扱いやすくなる理由は、次の 3 つです。

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「どんな情報が対象か」は場面で見せると伝わる

「未公表の重要な情報」と書かれても、日々の業務のどこでそれに触れているのかは、文章だけでは想像しにくいものです。決算の集計、提携や買収の検討、新製品の開発、大口の取引の交渉――部署ごとの典型的な場面を順に示し、その場で知った情報がなぜ扱いに注意が要るのかを見せられる点が、動画の効きやすいところです。

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役員にも、入社の時期が違う社員にも、同じ内容を渡せる

役員や管理職には説明会を開いても、中途入社の人、出向で来た人、派遣の方には、規程を渡すだけになりがちです。担当者が口頭で補足すると、人によって伝わる中身も変わります。入社や着任の手続きの流れの中で同じ動画を見てもらえば、誰が加わっても同じ説明から始められます。

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規程や窓口が変わるたびに配り直せる

売買の事前届出の様式や窓口、売買を控える期間の決め方、株式報酬の制度などは、見直しが入ることがあります。そのたびに全員を集め直すより、変わった部分を扱う本だけを差し替えて配り直すほうが、手間も伝わり方も整えやすくなります。毎年の再受講に同じ教材を使えるのも動画の利点です。

※ 本ガイドは、インサイダー取引の防止にまつわる社内ルールの周知を動画教材として運用する方法を整理するものであり、教材が法令で求められる要件を満たすことや、どの情報・どの取引が規制の対象にあたるかを示すものではありません。インサイダー取引の規制は金融商品取引法や取引所の規則に定めがあり、対象となる人・情報・取引の範囲や、公表の扱いには個別の判断が必要です。規程の内容や運用、個別の事案については、自社の法務部門や、弁護士など所管の専門家にご確認ください。

セクション 2

扱う内容の種類と動画化の相性

「インサイダー取引防止の研修」とひとことで言っても、その中身は、役職員の誰にでも共通する考え方から、自社の売買の手続き、重要な情報に触れる部署向けの情報の扱い、個別の売買の可否の判断まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わるため、まずどこを動画にするかを切り分けると、作る本数も更新の手間も見通しが立ちます。

扱う内容変わりやすさ動画化との相性進めるときのポイント
業務で知った未公表の情報は売買にも人への伝達にも使わないという共通の考え方(自社の株式だけでなく取引先の株式にも関わりうる、家族や友人に話すことにも注意が要る、迷ったら売買の前に聞く)変わりにくい全員に同じ内容を届ける用途に向く1 本目はここから。役職や部署を問わずそのまま渡せる
自社の売買の手続き(事前の届出や相談の流れ、売買を控える期間の社内ルール、従業員持株会や株式報酬で持つ株式の扱い、相談の窓口)規程の見直しや 窓口の変更で変わる向く。手続きの流れを順に見せられる考え方の本と別にし、規程が変わったらこの本だけ差し替える
重要な情報に触れる部署向けの情報の扱い(経理・経営企画・IR・事業開発など。情報を知る人の範囲の管理、資料の置き場所、社外との打ち合わせのときの注意)組織や 業務の進め方で変わる向く。ただし対象を部署ごとに絞る全社向けとは別の本にし、該当する部署だけに渡す
個別の売買の可否、ある情報が重要な事実にあたるかどうか、公表の時期の判断、すでに起きた事案への対応事案ごとに違う動画で決めるものではない教材では相談先と流れだけを示し、判断は法務部門と専門家へ

※ 何をどこまで教材に載せるか、どの範囲の人を対象とするかは、上場の有無、業種、取引先との関係、自社の規程の定めによって異なり、本ガイドでは判断できません。教材に書いたことがそのまま規程として効力を持つわけでもありません。規程として定める場合の内容と手続きは、自社の法務部門や所管の専門家にご確認ください。

セクション 3

実務の進め方 — 社内に実際に寄せられる「質問」から作る

インサイダー取引防止の教材でつまずきやすいのは、法令の条文や規程の章立てを頭から順に解説する構成から作り始めてしまうパターンです。条文の順番は、役職員が迷う順番とは一致しません。まずは、法務や総務の窓口に繰り返し寄せられる質問を書き出すところから始めてください。教材の題材はすべてここから出てきます。

窓口の担当者に、繰り返し出る質問を聞く — 「持株会の株を引き出して売りたいが、いつならよいか」「株式報酬で受け取った株を売る前に、何をすればよいか」「取引先の株をもともと持っているが、そのままでよいか」「会議で聞いた話を家族に話してしまった」「決算の発表日の前後に売買してよいか」。多くの会社で、似た質問が繰り返し出てきます。件数の多いものから 3 つか 4 つで十分です。誰が質問したかは記録せず、場面と迷った点だけを残してください。

1 本目は共通の考え方に絞る — 法令の仕組みを網羅的に説明する構成にすると、長くなり、どこが自分に関係するのかが伝わりません。まずは、業務で知った未公表の情報で売買しない/その情報を人に伝えない、勧めない/自社の株式だけでなく取引先の株式にも関わりうる/自社株を売買する前は決められた手続きを踏む/迷ったら売買の前に窓口へ聞く――この五つだけで 1 本にすると、役職や部署を問わずそのまま渡せます。手続きの詳細や部署ごとの情報の扱いは、そのあとに別の本で足していけば十分です。

「自分の場合はどうか」を場面で見せる — インサイダー取引の教材で効くのは、自分の仕事に重ねて見られることです。経理の担当者が決算の集計中に知った数字、営業が提携の打ち合わせで聞いた話、技術者が知る開発の進み具合――といった場面を短い寸劇や図で示し、その場で「売買しない」「人に話さない」「迷ったら窓口へ」がどう当てはまるかを順に追ってください。場面は教材用に作った架空のものを使い、実在の案件や取引先が特定されないようにします。

「してはいけないこと」と同じ重さで「手続きと聞き方」を見せる — 禁止事項だけを並べると、受け取る側は「自社株には触らないほうが無難」と構えてしまい、持株会や株式報酬の制度がかえって使われにくくなります。売買の前にどの様式を誰に出すのか、返事はいつまでに来るのか、売買を控える期間はどう知らされるのか、迷ったときは誰に聞けばよいのかを、窓口の名前を入れて具体的に示してください。あわせて、うっかり話してしまった、売買したあとで気づいた、というときに早めに相談する流れも扱うと、教材が「萎縮させるためのもの」ではなく「安心して制度を使うためのもの」として受け止められます。

対象で区切って短く作る — 「インサイダー取引のすべて」を 1 本にまとめると、自分に関係のない話が続き、途中で止められます。「共通編(役職員の全員向け)」「自社株を売買する前の手続き編」「重要な情報に触れる部署編」「役員・管理職編」のように区切っておくと、必要な本だけを渡せますし、規程や窓口が変わったときも差し替えが一部で済みます。ナレーションは、自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。窓口や様式が変わったときに一部だけ直して配り直したい場合や、海外拠点や日本語が母語でない方向けに多言語版も用意したい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。

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研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド

インサイダー取引防止の教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。

研修動画の作り方を読む →

セクション 4

視聴記録をどう残すか

誰がどの教材を見たかを把握しておくと、役職員の全員に行き渡っているか、規程を変えたときの配り直しが届いたかを確認できます。残し方は大きく 2 つです。

動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)

まず始めるなら

共有フォルダや社内ポータルに動画を置いて視聴してもらい、記録は入社時の誓約書や教育記録簿など、これまで使っている様式に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。規程を受け取ったことの確認と同じ日に視聴してもらい、確認書に「視聴した日」を記入してもらう運用にしている会社もあります。

LMS で受講状況を管理する(SCORM)

証跡を集約するなら

教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。グループ会社や拠点が多く、役員・社員・出向者などの対象ごとに、どこまで行き渡ったかを一覧で確認したい場合に向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。毎年の再受講を求める場合も、受講した年ごとの記録をまとめて確認できます。

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SCORM 1.2 入門ガイド

受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。

SCORM 1.2 入門ガイドを読む →

セクション 5

つまずきやすいポイント

インサイダー取引防止の研修を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。

条文の解説で終わらせない — 対象となる人や情報、取引の範囲を法令の言葉で細かく説明しても、受け取る側に残るのは「難しい」という印象だけになりがちです。教材の目的は、役職員が迷ったときに売買の前に止まり、窓口へ聞けるようになることです。法令の仕組みは必要な範囲で触れるにとどめ、時間の多くは場面と手続きと相談先に使ってください。

「これは重要な情報にあたる・あたらない」を教材で言い切らない — ある情報が規制の対象となる重要な事実にあたるかどうか、いつ公表されたことになるかは、事案ごとに判断が分かれます。教材の中で独自に例を線引きすると、規程と教材の二つの正本ができ、教材に載っていない場面で「これは大丈夫だろう」という思い込みを生むおそれもあります。教材は「迷う情報に触れたら売買せず、まず窓口へ」という示し方にとどめ、判断の中身は法務部門と専門家の確認を経た規程に置いてください。

役員・管理職向けを別に作る — 役員や管理職は、重要な情報に触れる機会が多いうえ、部下から相談を受ける立場でもあります。共通編を見てもらったうえで、会議資料の扱い、社外との打ち合わせで情報を伝える範囲、部下から「売買してよいか」と聞かれたときに窓口へつなぐ流れを扱う本を別に用意すると、全員向けの教材と食い違いません。

実在の案件や取引先を題材にしない — 説明を分かりやすくしようとして、過去の実際の提携や取引、社内の出来事を例に使うと、教材そのものが未公表の情報や取引先の情報を広げることになりかねません。場面は教材用の架空の会社・架空の案件で作り、書き出す前に、実在の社名や案件名、社内資料の画面が写り込んでいないかを確認してください。

規程や窓口が変わったら教材も差し替える — 事前届出の様式が変わった、窓口の部署が移った、売買を控える期間の決め方を見直した、株式報酬の制度が始まった――このとき教材だけが以前の内容のまま残ると、見た人は古い手続きで動いてしまいます。自社の手続きを扱う本には、いつ時点の内容かを画面に入れておき、規程を変える側から教材の担当に伝わる流れを決めてください。差し替えたら旧版は共有場所から下げ、どの版を見ればよいかが分かる状態にしておきます。

セクション 6

よくある質問

上場していない会社でも、この研修は必要ですか?
本ガイドでは判断できません。インサイダー取引の規制は上場会社の株式などに関わるものですが、上場していない会社でも、上場している取引先との取引や提携の中で、その取引先の未公表の情報に触れることがあります。自社にとってどの範囲の教育が必要かは、取引先との関係や業務の内容によって異なりますので、法務部門や弁護士など所管の専門家にご確認ください。
「コンプライアンス研修」や「情報漏えい防止」の教材とは、どう使い分けますか?
扱う範囲が違います。独占禁止法や下請法などを含む全社のコンプライアンス教育の全体像を扱うのが「コンプライアンス研修を動画で実施するには」、業務端末や持ち出し、SNS 投稿などによる情報の流出を防ぐ教育を扱うのが「情報漏えい防止・SNS 利用の教育を動画で実施するには」です。本ガイドは、業務で知った未公表の情報と株式の売買の関係――売買しない、伝えない、売買の前に手続きを踏む――に絞った位置づけです。全社のコンプライアンス教育の中の 1 本として、本ガイドの共通編を組み込む形も取れます。
家族の売買についても、教材で扱うべきですか?
業務で知った未公表の情報を家族や友人に話さないことは、共通編で扱いやすい内容です。一方で、家族の売買をどこまで社内の手続きの対象とするかは会社の規程によって異なり、本ガイドでは判断できません。自社の規程で定めている範囲を教材で示し、迷ったときは窓口へ、という流れにとどめてください。規程で扱いを定める段階では、所管の専門家にご確認ください。
すでに売買してしまったあとで「まずかったかもしれない」と気づいた社員がいる場合も、教材で対応できますか?
教材で示せるのは、気づいたら早めに窓口へ相談する、相談先はここ、という流れと窓口の名前までです。すでに起きた事案への対応は個別の判断が必要ですので、法務部門や弁護士など所管の専門家にご確認ください。教材を配る前に、相談した人をどう扱うかを自社の方針として整理しておくと、教材が実際に使われやすくなります。
海外拠点の社員や日本語が母語でない方にも同じ教材を使えますか?
そのままでは届きにくい部分があります。インサイダー取引に関わる用語は日本語でも難しく、訳語の選び方によって意味がずれやすいところです。字幕を用意する、多言語版を作る、手続きの流れは図で示す、窓口の連絡先は画面に文字で出す、といった工夫が有効です。海外拠点では現地の法令による規制が別にある場合もありますので、拠点ごとの扱いは所管の専門家にご確認ください。合成音声(TTS)で作っておくと、台本を訳して同じ構成の多言語版を用意しやすくなります。
どこから作ればよいですか?
まず、法務や総務の窓口に寄せられる質問を書き出してみてください。自社で多い迷いが見えます。1 本目は、業務で知った未公表の情報で売買しない/その情報を人に伝えない、勧めない/取引先の株式にも関わりうる/自社株を売買する前は決められた手続きを踏む/迷ったら売買の前に窓口へ聞く――という共通の考え方に絞ると、役職員の誰にでも配れる教材になります。次に「自社株を売買する前の手続き編」、そして「重要な情報に触れる部署編」を足していくと、実際に必要な形になります。すべてを一度に作ろうとすると完成しないまま止まりがちです。

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