HARMONIC insight
📝 実務ガイド

ヒヤリハット報告の教育を動画で実施するには
小さな出来事を責めずに報告し、共有する流れを現場の全員にそろえる進め方

ヒヤリハットの報告は、多くの職場で安全活動の柱として取り組まれていますが、「様式はあるのに報告が出てこない」「出てくるのは同じ人からばかり」「書いても何も変わらないと言われる」という悩みもよく聞かれます。報告が出てこない理由は、書き方を知らないことよりも、書くと自分の失敗を認めることになる、忙しくて書く時間がない、何を書けばよいか分からない、出したあとどうなるのか見えない、といったところにあることが少なくありません。配属のときに様式を渡して一度説明するだけでは、この状態はなかなか変わりません。その状態を変えるために、小さな出来事は災害の手前の大切な手がかりであり、報告した人を責めないという共通の考え方と、自社の報告の出し方・出したあとの流れを、現場の全員に同じ内容で繰り返し届けて記録に残す ための進め方を整理します。製造・建設・物流の安全担当者の方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、現場の実際の声から作る手順、構成時の注意点、視聴記録の残し方までを実務目線でまとめました。

所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 10 月

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セクション 1

なぜヒヤリハット報告の教育を動画にするのか

ヒヤリハットの報告は、様式を配るだけでは「なぜ書くのか」「書いたらどうなるのか」が伝わりにくく、繰り返しの周知が欠かせない取り組みです。動画にしておくと扱いやすくなる理由は、次の 3 つです。

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「責めない」という姿勢を、同じ言葉で全員に届けられる

報告が出てくるかどうかを大きく左右するのは、報告した人がどう扱われるかです。職長や先輩がそれぞれの言葉で説明すると、「正直に書いてほしい」という同じ趣旨でも、受け止め方は人によって変わります。報告した人を責めない、報告は職場をよくするための材料として使う、という会社の姿勢を、同じ言葉と同じ場面で示しておけば、誰が説明しても出発点がそろいます。

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配属や応援のたびに、同じ内容を渡せる

現場には、新しく配属された人、短い期間だけ入る応援の人、協力会社の人など、さまざまな人が加わります。こうした人ほど、何を報告してよいのか、誰に出せばよいのかが分からないまま作業に入りがちです。報告の考え方と出し方を同じ動画で届けておけば、誰が加わっても同じ説明から始められ、職長は現場での声かけに時間を使えます。

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繰り返し見せられ、様式や流れが変わったら差し替えられる

報告の習慣は、一度の説明より、朝礼や定期の安全の場で繰り返し思い出してもらうことで根づきます。短い動画にしておけば、同じ内容を何度でも流せます。報告の様式を変えた、紙から端末での入力に切り替えた、共有の場を見直した――そのときは、変わった部分を扱う本だけを差し替えて配り直せます。

※ 本ガイドは、ヒヤリハットの報告と共有にまつわる教育を動画教材として運用する方法を整理するものであり、教材が法令や指針、元請や業界団体の定めで求められる要件を満たすことを示すものではありません。労働災害や事故が起きた場合の報告は、ヒヤリハットの報告とは別に、法令や社内規程で定められた手続きに沿って行う必要があります。どのような出来事をどの手続きで報告するかは、業種や作業の内容、自社や元請の安全衛生管理の定めによって異なります。自社の安全衛生管理部門、元請の統括安全衛生管理部門、所轄の労働基準監督署にご確認ください。

セクション 2

扱う内容の種類と動画化の相性

「ヒヤリハット報告の教育」とひとことで言っても、その中身は、どの職場にも共通する考え方から、自社の報告の様式と流れ、職場ごとの事例、報告を受けた側の分析と対策まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わるため、まずどこを動画にするかを切り分けると、作る本数も更新の手間も見通しが立ちます。

扱う内容変わりやすさ動画化との相性進めるときのポイント
共通の考え方(けがに至らなかった出来事は、災害の手前の大切な手がかりになる/報告した人を責めず、作業や設備の条件として扱う/小さなことでも出してよい/出された報告は職場をよくするために使う)変わりにくい現場の全員に同じ内容を届ける用途に向く1 本目はここから。職場を問わずそのまま渡せる
自社の報告の出し方(様式や入力の画面、何を書けばよいか、誰に出すか、いつまでに出すか)と、出したあとの流れ(どこで共有され、どう対策につながり、どう結果が返ってくるか)様式や仕組みの見直しで変わる向く。手順を順に見せられる考え方の本と別にする。様式や入力の画面が変わったらここだけ差し替える
職場ごとの危険と、過去の報告から作る事例職場や時期によって変わる向く。ただし加工が必要報告した人や関わった人が特定されない形に作り直す。事例は定期的に入れ替える
報告を受けた側の原因の分析、対策の決め方、労働災害や事故にあたるかどうかの判断出来事ごとに違う動画で決めるものではない教材では相談先と流れだけを示し、判断は安全衛生管理部門や決められた場で

※ 何をどこまで教材に載せるか、どの範囲の人を対象とするかは、業種、作業の内容、職場の規模、自社や元請の安全衛生管理の定めによって異なり、本ガイドでは判断できません。けがや物の損傷があった出来事は、ヒヤリハットの報告ではなく、社内規程や法令で定められた報告の手続きの対象になることがあります。教材の中で二つを取り違えないよう、自社の安全衛生管理部門と線引きを確かめてから作ってください。

セクション 3

実務の進め方 — 現場で報告が「出てこない理由」から作る

ヒヤリハットの教材でつまずきやすいのは、報告の意義や様式の書き方の説明から作り始めてしまうパターンです。内容として正しくても、現場で報告が出てこない理由に答えていなければ、見たあとの行動は変わりません。まずは、職場で実際に報告が出てこない場面と、そのときに出ている声を書き出すところから始めてください。教材の題材はすべてここから出てきます。

職長や作業する人に、報告をためらう理由を聞く — 「書くと自分のミスを認めることになる」「書いたら注意されそう」「忙しくて書く時間がない」「このくらいは報告するほどでもないと思った」「何をどう書けばよいか分からない」「出しても何も変わらない」。多くの職場で、似た声が繰り返し出てきます。多いものから 3 つか 4 つで十分です。誰がそう言ったかは記録せず、理由だけを残してください。

1 本目は共通の考え方に絞る — 報告の意義、様式の書き方、分析の手法まで網羅しようとすると、長くなり、何をすればよいかが伝わりません。まずは、けがに至らなかった出来事は大切な手がかりになる/報告した人を責めない/小さなことでも出してよい/出された報告は職場をよくするために使う――この四つだけで 1 本にすると、職場を問わずそのまま渡せます。様式の書き方や事例は、そのあとに別の本で足していけば十分です。

「気づいたとき・書くとき・出したあと」を場面で見せる — 教材の中心は、制度の説明よりも、出来事に気づいてから報告が職場で共有されるまでの流れです。足を滑らせかけたが何ともなかった場面、職長に口頭で伝える場面、休憩時間に様式を書く場面、朝礼で報告が取り上げられる場面、対策が決まって本人に伝えられる場面――といった流れを短い寸劇や図で示し、どこで誰に何を伝えるかを順に追ってください。「何があったか」だけの書き方と、「どこで・何をしていて・何が起きかけたか」まで書いた書き方を並べて見せると、何を書けばよいかが伝わりやすくなります。場面は教材用に作ったものを使い、実在の社員や現場が特定されないようにします。

「出したあとどうなるか」を同じ重さで示す — 報告の大切さだけを伝えても、出した報告がどこへ行ったのか見えなければ、「書いても何も変わらない」という声はまた出てきます。出された報告がどの場で共有されるのか、対策はどう決まるのか、結果は本人や職場にどう返ってくるのか――自社で決めている流れを、具体的に示してください。報告がきっかけで手すりを付けた、置き場所を変えた、といった実際の対策を(関わった人が分からない形で)紹介すると、報告が職場を変える材料として受け止められます。どの対策を取るかの判断は、安全衛生管理部門や決められた場の役割です。

対象で区切って短く作る — 「ヒヤリハット活動のすべて」を 1 本にまとめると、自分に関係のない話が続き、途中で止められます。「共通編(現場の全員向け)」「報告の書き方と出し方編」「職場ごとの事例編」「職長向けの報告の受け止め方編」のように区切っておくと、必要な本だけを渡せますし、様式や流れが変わったときも差し替えが一部で済みます。ナレーションは、自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。一部だけ直して配り直したい場合や、外国籍の作業者向けに多言語版も用意したい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。

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研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド

ヒヤリハット報告の教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。

研修動画の作り方を読む →

セクション 4

視聴記録をどう残すか

誰がどの教材を見たかを把握しておくと、新しく加わった人や応援の人に行き渡っているか、様式や流れを変えたときの配り直しが届いたかを確認できます。残し方は大きく 2 つです。

動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)

まず始めるなら

共有フォルダや社内ポータル、現場の端末に動画を置いて視聴してもらい、記録は新規入場者の教育記録や安全衛生教育の実施記録など、これまで使っている様式に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。配属のときや、新しい現場に入る前に視聴してもらう運用にしておくと、抜け漏れを防ぎやすくなります。

LMS で受講状況を管理する(SCORM)

証跡を集約するなら

教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。工場や現場が複数あり、様式や流れを変えたときの周知がどこまで行き渡ったかを一覧で確認したい場合に向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。定期的に見直しの受講を求める場合も、版ごとの記録をまとめて確認できます。

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SCORM 1.2 入門ガイド

受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。

SCORM 1.2 入門ガイドを読む →

セクション 5

つまずきやすいポイント

ヒヤリハット報告の教育を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。

報告した人を責める教材にしない — 事例を紹介するときに「この人の不注意が原因でした」「確認を怠ったからです」とまとめると、見た人は「報告すると自分もこう言われる」と受け止めます。事例は、どの作業の、どの場所で、どんな条件が重なったかとして整理し、人の注意だけに原因を帰さないでください。教材の語り口が、報告の出やすさをそのまま左右します。

件数を競わせる教材にしない — 報告の件数を目標にして教材で強調すると、中身の薄い報告が増えたり、出すこと自体が負担になったりすることがあります。教材では、件数よりも「気づいたことを出してよい」「出されたものが職場をよくする」という点に時間を使ってください。件数の目標をどう扱うかは、自社の安全衛生管理の方針として別に決めるものです。

ヒヤリハットと労働災害・事故の報告を取り違えない — けがや物の損傷があった出来事まで「ヒヤリハットとして出せばよい」と受け止められると、社内規程や法令で定められた報告の手続きが抜けるおそれがあります。教材の中で、ヒヤリハットの報告とは別に、けがや事故のときの報告の流れがあることをはっきり示し、迷ったときは職長や安全担当に相談する、という一言を入れてください。どの出来事がどちらにあたるかの判断は、教材で一律に決めるものではありません。

実際の報告をそのまま使わない — 過去の報告は説得力のある教材になりますが、そのまま使うと、書いた人や関わった人、場所や取引先が特定されることがあります。事例は教材用に作り直し、氏名・所属・日時・現場名が分からない形にしてください。書き出す前に、実在の名前や社内の資料が写り込んでいないかを確認します。

様式や流れが変わったら教材も差し替える — 紙の様式から端末での入力に変えた、共有の場を見直した、報告先を変えた――このとき教材だけが以前の内容のまま残ると、見た人は古い様式や古い窓口で動いてしまいます。報告の出し方を扱う本には、いつ時点の内容かを画面に入れておき、仕組みを変える側から教材の担当に伝わる流れを決めてください。差し替えたら旧版は共有場所から下げ、どの版を見ればよいかが分かる状態にしておきます。

セクション 6

よくある質問

ヒヤリハット報告の教育は、動画だけで足りますか?
動画で担えるのは、共通の考え方と自社の報告の出し方を同じ内容で繰り返し届けるところまでです。報告が出てくるようになるかどうかは、実際に出された報告を職長がどう受け止めるか、対策がどう返ってくるかに大きく左右されます。動画は配属時の共通の説明や定期の振り返りに使い、職長による日々の声かけや、報告を共有する場づくりと組み合わせて運用してください。
「危険予知(KY)活動」の教材とは、どう使い分けますか?
扱う時点が違います。作業の前に危険を話し合って見つけておく取り組みを扱うのが「危険予知(KY)活動の教育を動画で実施するには」、作業の中で実際にひやりとした出来事を報告し共有する取り組みを扱うのが本ガイドです。ヒヤリハットの報告で見えた危険を次の KY の題材にする、というように二つはつながっています。同じ職場の人に届けるなら、両方の教材の中で互いにふれておくと、活動の流れが伝わりやすくなります。
法令で定められた安全衛生教育とは、どう組み合わせればよいですか?
雇入れ時や作業内容を変更したときの教育、特別教育など、法令で定められた教育の全体像は「安全衛生教育を動画で実施するには」に整理しています。どの教育がどの作業に必要か、動画をどこまで使えるかは、作業の内容と法令の定めによって異なります。本ガイドの教材は、定められた教育とは別の、自社の安全活動の周知に使う位置づけにして、要件の確認は安全衛生管理部門と所轄の労働基準監督署に行ってください。
協力会社や応援の人にも使えますか?
共通編はそのまま使える場合が多く、現場に入る前に見てもらう運用が向いています。ただし、協力会社の人の報告をどの様式で誰が受けるか、元請の報告の仕組みとどうつなぐかは、元請と協力会社の取り決めによって異なります。元請の統括安全衛生管理部門と確認したうえで、報告の出し方を扱う本を新規入場時の教育に組み込んでください。
外国籍の作業者にも同じ教材を使えますか?
共通編はそのまま使える場合が多いですが、届け方の工夫が要ります。字幕を用意する、多言語版を作る、報告の流れは文字よりも図で示す、報告先は画面に文字で出す、といった工夫が有効です。日本語で書くことが負担になって報告が出てこない場合もあるため、口頭で職長に伝えてよい、図や写真で示してよい、といった自社の受け止め方を教材であらかじめ見せておくと、報告をためらいにくくなります。合成音声(TTS)で作っておくと、台本を訳して同じ構成の多言語版を用意しやすくなります。
どこから作ればよいですか?
まず、職場で報告をためらう理由と、そのときに出ている声を書き出してみてください。自社で多い困りごとが見えます。1 本目は、けがに至らなかった出来事は大切な手がかりになる/報告した人を責めない/小さなことでも出してよい/出された報告は職場をよくするために使う――という共通の考え方に絞ると、現場の誰にでも配れる教材になります。次に報告の書き方と出し方の本、そして職場ごとの事例や職長向けの本を足していくと、実際に必要な形になります。すべてを一度に作ろうとすると完成しないまま止まりがちです。

ご紹介

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