リスクアセスメントの教育を動画で実施するには
危険源の洗い出し・見積り・対策の優先順位の決め方を、職場の担当者に同じ内容で届ける進め方
リスクアセスメントは、安全の担当者が一人で行うものではありません。作業をいちばんよく知っている職長や班長が危険源を挙げ、けがの重さと起こりやすさを見積もり、どの対策から手を付けるかを決めていく作業です。ところが、やり方を教わった人が異動したり、職場ごとに見積りの付け方がばらばらだったりすると、同じ危険でも職場によって評価が変わってしまいます。そこで、危険源の洗い出し方、見積りの付け方、対策の優先順位の決め方、記録の残し方を、リスクアセスメントに携わる担当者に同じ内容で届けて記録に残す ための進め方を整理します。安全担当や製造・建設の管理部門の方向けに、動画にできる部分とできない部分の切り分け、作る順番、構成時の注意点、視聴記録の残し方までを実務目線でまとめました。
所要時間:7 分 / 最終更新:2026 年 11 月
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セクション 1
なぜリスクアセスメントの教育を動画にするのか
リスクアセスメントのやり方は、年に一度の研修や、担当になったときの引き継ぎで伝えられていることが多いものです。担当者が入れ替わっても同じやり方を保ちたいとき、動画にしておくと扱いやすくなる理由は、次の 3 つです。
職場が違っても、同じ物差しで見積もれるようになる
けがの重さや起こりやすさの区分を「大・中・小」とだけ覚えていると、ある職場では「中」とした危険を、別の職場では「大」とすることがあります。動画で自社の様式と区分の考え方を、同じ例題を使って示しておけば、担当者が違っても近い評価に落ち着きやすくなり、職場をまたいだ対策の優先順位も比べやすくなります。
危険源を「実際の作業の映像」で示せる
「挟まれ・巻き込まれ」「墜落・転落」と言葉で並べても、自分の職場のどこに当てはまるのかは見えにくいものです。動画なら、自社の機械や作業台、通路、荷の置き場を映しながら、どこに手が入るか、どこで足を踏み外しうるかを指し示せます。初めて担当になった人でも、危険源の見つけ方を具体的な場面でつかめます。
担当が替わっても、同じやり方を引き継げる
職長や班長の交代、異動のたびに、前の担当者からやり方を口頭で教わる形だと、少しずつ手順が変わっていきます。動画にしておけば、新しく担当になった人に同じ内容を渡し、誰に届いたかを残せます。様式や基準を見直したときも、変わった部分の本だけを作り直して差し替えられます。
※ 本ガイドは、リスクアセスメントの手順を社内の動画教材として届ける方法を整理するものです。制度の事実は労働安全衛生法と国の指針(2026 年 11 月確認)に触れていますが、動画教材は、実際の職場で行う危険源の洗い出しや評価、対策の検討そのものの代わりになるものではありません。自社にどの定めがかかわるか、実施の体制や時期、見積りの方法は、自社の安全衛生管理部門、所轄の労働基準監督署、中央労働災害防止協会など所管の機関にご確認ください。本ガイドは法的な助言や、個別の判断を示すものではありません。
セクション 2
扱う内容の種類と動画化の相性
「リスクアセスメントの教育」とひとことで言っても、その中身は、全社に共通の手順と考え方から、自社の様式と見積りの基準、職場ごとの例題、実際の職場で行う洗い出しと評価の会議まで幅があります。動画化との相性は内容によって大きく変わるため、まずどこを動画にするかを切り分けると、作る本数も見直しの手間も見通しが立ちます。
| 扱う内容 | 変わりやすさ | 動画化との相性 | 進めるときのポイント |
|---|---|---|---|
| 全社に共通の手順と考え方(危険源を特定する → けがの重さと起こりやすさでリスクを見積もる → 対策の優先順位を決める → 実施して記録する/いつ行うか) | あまり変わらない | 担当者全員に同じ内容を届ける用途に向く | 1 本目はここから。職場や拠点を問わずそのまま渡せる |
| 自社の様式と見積りの基準(記入する様式の欄、重さ・起こりやすさの区分と点数の付け方、優先度の決め方、記録の保管先) | 様式や基準を見直したときに変わる | 向く。様式を画面に映しながら 1 行ずつ埋める様子を見せられる | 共通の手順とは本を分ける。見直したらここだけ差し替える |
| 職場ごとの例題(機械の作業、高所の作業、運搬や荷の扱い、保守や清掃など、その職場の代表的な作業での洗い出しと見積り) | 設備や作業の変更で変わる | 向く。自社の作業の映像で危険源を指し示せる | 職場ごとに短い本にする。例題の答えは「自社ではこう評価した」として示す |
| 実際の職場で行う危険源の洗い出しと評価の会議、対策の検討と決定、実施後の確認 | 設備・作業・事故などのたびに行う | 動画で代えられるものではない | 教材では「いつ・誰が集まって行うか」「結果をどこに残すか」だけを示す |
※ 何をどこまで教材に載せるか、誰を対象とするかは、業種や事業場の規模、扱う設備や原材料、作業の内容、自社の安全衛生管理の体制などによって異なり、本ガイドでは判断できません。化学物質に関するリスクアセスメントには別の定めがあります。教材の内容が自社の規程や様式と食い違わないよう、安全衛生管理部門と確かめてから作ってください。
セクション 3
実務の進め方 — 「自社の職場の作業」を例題にして作る
この教材でつまずきやすいのは、手順の説明と一般的な例だけで終わってしまうパターンです。「危険源を特定し、リスクを見積もる」と説明されても、自分の職場のどの作業から手を付け、何を危険源として書けばよいのかは伝わらないまま残ります。そろえたいのは、担当者が自分の職場の作業を前にしたときに、同じ順番で危険源を挙げ、同じ物差しで見積もれることです。まずは、自社の職場の代表的な作業を例題として選ぶところから始めてください。
例題にする作業を、先に選ぶ — 安全の担当者と職長・班長に、自分の職場でけがやヒヤリハットが起きた作業、新しく入った人がつまずきやすい作業を挙げてもらいます。「機械の詰まりを取り除く作業」「脚立を使った棚の上の作業」「台車での荷の運搬」「設備の清掃や点検」といった、自社の作業が集まります。ここで選んだ作業が、そのまま教材の例題になります。
1 本目は共通の手順に絞る — 見積りの点数の付け方や様式の細かい欄まで盛り込もうとすると長くなります。まずは、危険源を特定する/けがの重さと起こりやすさでリスクを見積もる/対策の優先順位を決める/実施して記録する――この四つの流れと、それぞれで何を考えるかで 1 本にすると、初めて担当になった人にもそのまま渡せます。
1 つの作業を、最初から最後まで通して見せる — 例題の作業を 1 つ決め、作業の手順を順に映しながら危険源を挙げる、挙げた危険源ごとに重さと起こりやすさを見積もる、優先度の高いものから対策を考える、様式に記入する、という流れを 1 本の中で通してください。手順を説明するだけの本と比べて、どこで何を考えるのかがひと目で分かり、言葉の説明は短くて済みます。
対策の優先順位を、はっきり見せる — 国の指針では、リスクを下げる対策について、法令に定められた事項を必ず実施したうえで、危険な作業そのものをなくしたり変えたりする対策、ガードや安全装置などの設備による対策、手順書の整備や立入禁止・教育などの管理による対策、保護具の使用、という順で検討する考え方が示されています。教材の中で「まず作業や設備で危険をなくせないかを考え、保護具は最後の手段」という順番を、例題の対策の検討に当てはめて見せると、注意の呼びかけだけで終わる対策が減ります。
対象ごとに本を分け、変わりやすい部分を分けておく — 全員に共通の手順と、自社の様式・基準、職場ごとの例題は別物です。「共通編(手順と考え方)」「様式編(自社の様式と見積りの基準)」「例題編(職場ごとの代表的な作業)」のように区切っておくと、必要な本だけを渡せますし、様式や設備が変わったときも差し替えが一部で済みます。ナレーションは、自分たちの声で録音する、台本から合成音声(TTS)で生成する、といった選択肢があります。様式を見直すたびに一部だけ直したい場合や、外国籍の職長・班長向けに多言語版も用意したい場合は、台本を直せば作り直せる合成音声(TTS)が運用しやすい方式です。
研修動画の作り方 — 6 ステップの実務ガイド
リスクアセスメントの教材も、企画 → 台本 → スライド → ナレーション → 書き出し → 配信という基本の流れは他の研修動画と同じです。台本の書き方やナレーションの選択肢の比較は、こちらの実務ガイドに整理しています。
研修動画の作り方を読む →セクション 4
視聴記録をどう残すか
誰がどの教材を見たかを把握しておくと、新しく担当になった人に漏れなく届いたか、様式や基準を見直したあとに改めて見てもらう人は誰かを確認できます。国の指針でも、調査に携わる人に必要な教育を行うことが示されており、誰に何を届けたかを押さえておくと説明がしやすくなります。残し方は大きく 2 つです。
動画を共有し、記録は既存の様式に残す(MP4 共有)
まず始めるなら共有フォルダや社内ポータルに動画を置いたり、安全衛生委員会や職長の集まりで流したりして視聴してもらい、記録は教育の実施記録や参加者名簿など、これまで使っている様式に残す運用です。追加のシステムが不要で、今の流れを変えずに始められます。動画の側では誰が視聴したかは残らないため、記録は従来の様式で押さえる形になります。
LMS で受講状況を管理する(SCORM)
証跡を集約するなら教材を SCORM 形式で LMS(学習管理システム)に登録すると、受講者ごとの完了状況や学習時間を LMS が自動で記録します。拠点や職場が多く、担当者に届いたかを一覧で確認したいときに向きます。無料・オープンソースの LMS もあり、まずは小さく試すこともできます。例題編のように職場ごとに対象者が違う本も、同じ仕組みで誰に届いたかを確認できます。
SCORM 1.2 入門ガイド
受講記録を残すうえで避けて通れないのが SCORM 規格です。SCORM とは何か、なぜ重要か、対応 LMS、書き出しの流れまでをまとめた入門ガイドをご用意しています。サンプル SCORM 1.2 パッケージも無料でダウンロードできます。
SCORM 1.2 入門ガイドを読む →セクション 5
つまずきやすいポイント
リスクアセスメントの教育を動画にするときに引っかかりやすい点を、先回りして 5 つ挙げておきます。
動画を見たことで、リスクアセスメントを行ったことにしない — 労働安全衛生法第 28 条の 2 では、事業者が、設備や原材料、作業のやり方などによる危険性・有害性を調べ、その結果に基づいて必要な措置を講じるよう努めることが定められています(化学物質に関するもの以外は、製造業など省令で定める業種の事業者が対象です)。動画教材は、そのやり方を担当者にそろえるための入口で、実際の職場での洗い出しと評価、対策の実施は別に行うものです。教材の位置づけを社内で先に決めておいてください。
例題の評価を「正解」として押し付けない — 例題で示す見積りは、自社のある職場で、ある時点の条件で評価した一つの例です。同じ作業でも、設備や人の配置が違えば評価は変わります。教材の中で「この職場ではこう評価した。自分の職場では条件を確かめて見積もる」と添え、評価の会議で話し合う余地を残してください。見積りの基準そのものは、安全衛生管理部門で決めて様式編に載せます。
「注意する」「気をつける」だけの対策で終わらせない — 対策の欄に「注意して作業する」とだけ書かれた記録は、よく見かけます。教材の例題で、作業や設備を変える対策から先に検討し、それができないときに手順や表示、保護具で補う流れを見せておくと、担当者が自分の職場で対策を考えるときの手がかりになります。どこまでの対策を採るかは、職場と安全衛生管理部門で決めます。
実施する時期を、教材に入れ忘れない — 国の指針では、建物や設備を新しくしたり変えたりしたとき、原材料や作業のやり方・手順を新しくしたり変えたりしたときなど、リスクに変化が生じたときに調査を行うことが示されています。教材が「年に一度の点検」の印象で終わると、設備の入れ替えや手順の変更のときに見直されないまま残ります。自社でどの変更のときに行うかを決め、共通編の中で示してください。
様式や基準を、古いまま残さない — 様式の欄や見積りの区分を見直したのに古い動画が残っていると、職場によって新旧の様式が混ざります。いつ時点の内容かを画面に入れ、様式や基準を見直したときは様式編を作り直して、旧版は共有場所から下げる担当を決めてください。
セクション 6
よくある質問
危険予知(KY)活動の教材とは、どう使い分けますか?
化学物質のリスクアセスメントも、この教材で扱えますか?
見積りの方法は、どれを使えばよいですか?
協力会社や派遣で来ている人にも見てもらうべきですか?
外国籍の職長や班長にも使えますか?
どこから作ればよいですか?
ご紹介
社内の研修教材づくりに使えるツールのご紹介
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